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相次ぐ強豪敗退も…14連覇を逃した聖光学院が“1年で王者奪還”のスゴみ「恐怖心はありました。二度と行けないんじゃないかと」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/07/29 06:00
昨夏「衝撃の敗戦」から1年。今年も各地で波乱が起きる中、聖光学院が王者を奪還した
何をやるべきか?
それを、センバツ直後からキャプテンを筆頭に突き詰めてきたからである。赤堀が言う。
「センバツが終わって気持ちが落ちてないって言ったら嘘になるんですけど、自分らは日本一になることが目標だったんで、達成できなかった悔しさのほうが大きかったというか。夏の大会が始まるまでの3カ月ってあっという間やし、気持ちを落としてる場合じゃないなって。だから、ミーティングとかで『夏までの1日、1日を噛みしめていこう』みたいなことは毎日話していました」
彼らが出した大きな答えは、「ここからの1試合、1試合が夏の大会だと思って」という、強烈なまでの意識の刷り込みだった。
ファーストの伊藤遥喜が、キャプテンの意志を汲み取るように語調を強める。
「春の大会からみんな夏を意識してました。『ここで負けたら引退だ』くらいの強い気持ちで戦っていかないと、本番では絶対にやり切ることができないんで」
チームの気概に嘘はなかった。
春の東北大会は「涙の優勝」…迎えた夏
春の県大会で優勝した聖光学院は、東北大会では初戦を除く3試合すべてで逆転勝ちと、驚異的な粘りで頂点に立った。2回戦でサヨナラ打を放った安田淳平が崩れ落ちるほど号泣し、サードの生田目陽、2年生のセカンド・高中一樹や4番を打つ三好元気など他の選手も勝つたびに涙するほど本気だった。
それでも、聖光学院はまた、自問自答する。
何をやるべきか?
野手なら攻撃力のさらなる強化だ。「夏はピッチャーを助ける」とばかりに、赤堀と伊藤はよりミート率を高めるべくバッティングフォームを見直す。主軸を打つ山浅龍之介はタイミングの取り方を改善するために、バドミントンのシャトル打ちを多く取り入れた。安田もスイングの軌道や間合いを確かめるようにティーバッティングや投手のボールをひたすら打ち、感覚を養った。
夏。故障からコンディションが上がらない、絶対エースの佐山を打線がカバーする。当然ながら打てる選手もいれば、そうでない選手もいるが、全員が役割を理解し、遂行した。
「春から夏のつもりで」と悲壮感を口にした伊藤が、5割5分6厘、9打点と爆発する。
夏にレギュラーを勝ち取り、3割1分3厘、5打点と気を吐いた狩野泰輝も続く。
「チャンスをもらえる人数は限られているわけで、自分がその立場になった以上はどんなことでもやるというか。試合でも打席でも、自分がチャンスをものにしていくことがチームのためだと思ってます」
数字を残した者だけが利他的に振る舞っているのではない。2割1分4厘と打率が低くとも、淡々と仕事をこなした生田目の言葉にこそ、真の説得力が込められている。
「試合に出ている以上は、自分の結果をいちいち気にしてられないし、ベンチで一緒に戦ってくれてる選手やスタンドから応援してくれているメンバーに申し訳ないんで。打てなくても、エラーしてもチームを負けさせないプレーに徹すればいいって」
夏のチーム打率3割7分1厘。ここに信念の強さが表れているのだと、斎藤は唸った。