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相次ぐ強豪敗退も…14連覇を逃した聖光学院が“1年で王者奪還”のスゴみ「恐怖心はありました。二度と行けないんじゃないかと」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/07/29 06:00
昨夏「衝撃の敗戦」から1年。今年も各地で波乱が起きる中、聖光学院が王者を奪還した
聖光学院は昨夏、準々決勝で敗れ戦後最長記録を更新していた連覇が13で途絶えた。
だからといって、それが斎藤の言った「恐怖心」と直結するわけではない。
「高校野球で名将って呼ばれる人たちもよく言ってんだけど、『同じ高校生なんだから、グラウンドに立ったら五分五分の勝負だ』って。本当にそう思うよね。それを俺も選手も本気で信じて戦っていくことが、すごく大事なことなんだと思うし、今年のチームはそこに限りなく近づけてるとは思ってっかんね」
今年の聖光学院は、よく「力がない世代」と枕詞のように言われることが多い。実際、彼らは入学直後に、部長兼Bチーム監督の横山博英から「お前たちは元気があるけどそれだけ」と、奮起を促されているくらいだ。ただ、聖光学院においては、どの世代も最初は「力がない」といった趣旨ではっぱをかけられており、現世代だけに限った評価ではない。
大事なのは、この言葉を選手たちがどう受け入れ、練習や試合で表現できるかだ。
王者を奪還した「力がない世代」
このチームではキャプテンの赤堀颯がその体現者である。「力がない」ことについて聞かれると、やんわりといつもこう説いている。
「何をもって『力がない』と言われているのか、自分たちにはわからない。大事なのは今までやってきたことを試合でどう見せるか、どう勝利に繋げていくか。日本一を達成するために何をやるべきか、だと思っています」
そう言っても、数字だけで判断すれば力量不足を印象付ける点は少なからずあった。
昨秋がそうだ。センバツの一般枠で選ばれたチームでは最下位の打率2割6分7厘。その攻撃力不足を、バントや走塁といった小技、防御率1.00と安定感を誇ったエース・佐山未來を中心とした堅い守備力でカバーした。シーズンオフに課題の攻撃力も強化して出場したセンバツでは1勝を挙げた。
毎回センバツを終えると、「燃え尽き症候群のようになる」と斎藤は言っている。前年のオフから張り詰めていた緊張が弛緩するのは仕方がないと、監督も多少は容認するが、今年はそれが「なかった」というのだ。