Number ExBACK NUMBER
”悪魔仮面”は来日して「仮面貴族」、”〇〇の殺人鬼”も実は紳士だった…「現在ではご法度のひどい名前も」元東スポ記者が明かす外国人レスラー異名の裏面史
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byEssei Hara
posted2022/07/20 11:00
来日前の異名は悪魔仮面だったミル・マスカラス。本記事では元東京スポーツ記者の高木圭介氏が時代を彩った外国人レスラーの異名について考察する
昭和30年代など、スポーツ選手や芸能人に限らずとも、政治家にも人間機関車(浅沼稲次郎)とか、昭和の妖怪(岸信介)なんて異名がつけられていた。昭和の~のほうは異名というより、悪口にしか聞こえないが当時はどうだったのだろう? しかし新聞や雑誌の見出し的にも、こういった異名つきのキャラクターのほうが訴求力が強いのは確かなのである。
鉄の爪(フリッツ・フォン・エリック)とか人間風車(ビル・ロビンソン)のように、必殺技名をそのまま和訳したもの。銀髪鬼(フレッド・ブラッシー)や殺人狂(キラー・コワルスキー)、人間発電所(ブルーノ・サンマルチノ)や人間山脈(アンドレ・ザ・ジャイアント)、人間摩天楼(スカイハイ・リー)と、理路整然たる説明は難しいものの、その字面だけでも凄さが伝わってくるもの。
荒法師(ジン・キニスキー)とか地獄の料理人(ハンス・シュミット)、金髪のジェット機(ジョニー・バレンタイン)といった、今もよく分からないもの。来日前の情報だけで付けられたものの、いざ来日してみたら、ちょいとイメージが違っていたテキサスの荒馬(ドリー・ファンクJr)や悪魔仮面(ミル・マスカラス)なんてのもあった。荒馬どころか冷静沈着で理詰めの試合ぶりのドリーは、わりとそのままだったが、マスカラスのはすぐに「仮面貴族」と改称されていた。骨折王(ホイッパー・ビリー・ワトソン)なんて強いんだか弱いんだかよく分からない。
現在では、はばかられる異名も
そうした傑作珍作を整理していると、現在の基準では堂々と使用するのがはばかられる異名も多いことに気がつく。
とくにボボ・ブラジルやアブドーラ・ザ・ブッチャーといった黒人選手の「黒い魔神」「黒い呪術師」なんて、肌の色に由来するソレも、今や避けられる傾向にある。面白いのは90年代以降、「黒」がつく異名は、蝶野正洋の「黒の総帥」やドン・フライの「黒い格闘王」のように、肌の色ではなく、腹黒く何か企んでいる策士を指すものとして活用され続けていることだ。
プロレスラーの異名は、その昔、現場で取材にあたるスポーツ紙記者やプロレス雑誌記者に委ねられていた。事前情報が豊富に入手できる現在ならともかく、インターネット普及以前の90年代中盤あたりまでは、来日前に名前と身長体重、出身地(国のみの場合も)のみのペラ1枚と、写真1枚のみを渡されて、「これで記事を書け」というケースも多かった。写真が宣材用に撮影されたソレならば、まだイメージが湧きやすいのだが、パスポート用の顔写真や明らかにプライベートで撮影したと思われる笑顔の記念写真の場合も……。