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”悪魔仮面”は来日して「仮面貴族」、”〇〇の殺人鬼”も実は紳士だった…「現在ではご法度のひどい名前も」元東スポ記者が明かす外国人レスラー異名の裏面史 

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高木圭介

高木圭介Keisuke Takagi

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photograph byEssei Hara

posted2022/07/20 11:00

”悪魔仮面”は来日して「仮面貴族」、”〇〇の殺人鬼”も実は紳士だった…「現在ではご法度のひどい名前も」元東スポ記者が明かす外国人レスラー異名の裏面史<Number Web> photograph by Essei Hara

来日前の異名は悪魔仮面だったミル・マスカラス。本記事では元東京スポーツ記者の高木圭介氏が時代を彩った外国人レスラーの異名について考察する

 必殺技や得意技が判明している場合は「地獄の〇〇」となり、出身地が分かっている場合は「〇〇の殺人鬼」ってな具合に、かなりテキトーに決まっていく。これらで使用される地名は、州都など有名都市よりも、ややマイナーな都市のほうが、どこか得体の知れなさが膨らみ効果的だったりする。

 そして、いざ開幕戦前、成田空港に取材に出向くと、〇〇の殺人鬼のはずが、笑顔で「ナイス・トゥー・ミー・チュー」なジェントルマンだったり、プライベート写真では笑顔だった選手が凶悪な殺人鬼風だったなんてこともしばしば。そんなファジーな部分もプロレス取材の面白いところだ。

神取本人は「犯人はお前だったのか!」

 今回、「プロレス50年を背負った男たち」なる特集タイトルにも関わらず、何の疑問も感じさせず、あまりに堂々と登場している神取忍(LLPW-X)。29年前、彼女に「ミスター女子プロレス」だの「女子プロレス最強の男」なんて酷い異名をつけた犯人は、東スポの新人記者時代の筆者なのだが、これらもジェンダー問題に関して、茶化すことがご法度となる現在では使いづらい。神取本人は「犯人はお前だったのか!」と怒りつつ笑っていたが……。

 異名やあだ名は時代の空気に大きく影響される。大図鑑にも登場するバーン・ガニアの「AWAの帝王」なんてのも、AWA(アメリカン・レスリング・アソシエーション)が活動停止して早や31年。今やAWAと聞けば音楽配信サービスを思い浮かべる人のほうが多いことだろう。近未来、「AWAの帝王」なる異名は、音楽配信サービスで最もストリーミングされたアーティストの異名になっていることだろう。予言。

 今や小学校で「あだ名禁止」が取り沙汰されてしまうようなデリケートな時代だ。情報量の豊富さからも、イメージや妄想のみで成り立つテキトーな異名も許されない時代となることだろう。洋画や洋楽の邦題もほぼ消えてしまった今、プロレス界だけでも裏伝統として、秀逸な異名をひねり出し続けて欲しいものだ。

 勝手に命名された外国人選手が、漢字ブームも後押しされつつ、ついうっかりと二の腕あたりにタトゥーしてしまうような素敵な異名を!

 発売中のNumber1055号「伝説継承。プロレス50年を背負った男たち」には、アントニオ猪木による巻頭メッセージや、オカダ・カズチカ×坂口征二、棚橋弘至×藤波辰爾、武藤敬司×髙田延彦、内藤哲也×蝶野正洋、初代タイガーマスク×鈴木みのる、髙山善廣×中邑真輔などのビッグ対談、渕正信×大仁田厚が語るジャイアント馬場&ジャンボ鶴田、川田利明×丸藤正道が語る三沢光晴、長州力独占インタビューなど、プロレスの歴史を背負ってきたレスラーたちの肉声が満載です。「外国人レスラー大図鑑 50年の50人」ともども、ぜひ御覧ください。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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