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「メイウェザーを怒らせてはいけない」世界的ボクシングカメラマンが振り返る「ブチ切れKO事件」と超努力家な“マネー”の実像
posted2022/07/07 11:00
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph by
Naoki Fukuda
50戦全勝、無敗のまま5階級を制覇してプロボクシングを引退したスーパーボクサー、フロイド・“マネー”・メイウェザーに対する世間のイメージは、どちらかといえばネガティブなものが多いかもしれない。神業のテクニックと光速パンチの一方、クラスを上げていく中で目立つようになった安全運転の戦いぶりやどぎつい成金趣味は、確かに一定数のアンチを生んできた。
だが、それと同時に彼は類い稀な“努力の天才”としても知られていて、ことボクシングに向き合う姿勢は沢山の同業者やファンから最大級にリスペクトされている。
まずは取材者、カメラマンという立場で感じたこの努力家の部分から取り上げていきたいと思う。メイウェザーほどの猛練習をこなす選手を、いままで見たことがないからだ。
“努力の天才”による濃密すぎるジムワーク
私が住んでいたラスベガスの西エリアにTMT(ザ・マネーチーム=チーム・メイウェザー)の専用ジムがあったせいもあり、在米当時もっとも頻繁に撮影したファイターの一人がメイウェザーでもあった。彼のジムワークを取材する際には、本人の「遅刻」を含めて、常に4時間以上のスケジュールを空けておかなければならなかったと記憶している。とにかく一つ一つのメニューが濃密でひたすら長く、途中でペースを落とす気配がほとんどない。
その練習法というと、2020年に他界した叔父ロジャーとのミット打ちが有名ではなかろうか。ロジャーが持つミットをリズミカルに軽打しまくる曲芸のようなウォーミングアップが、メイウェザーの代名詞にもなっていた。しかし、少し意外かもしれないが、実際に驚かされるのはその合間に見せていくパワーパンチの特訓だった。プロテクターをつけた巨漢をリングに入れ、唸り声を上げて強打を繰り出し続ける。サンドバッグも同様にハードパンチが中心だ。ウェートを使ったトレーニングも入念に行っていて、本気で打ったらやはりパンチはかなりありそうに見えた。骨格的にはライト級くらいなので、それ以上の階級では明らかにディフェンシブな“負けないスタイル”になったが、いざとなればこの全力の攻撃があったというわけだろう。