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「メイウェザーを怒らせてはいけない」世界的ボクシングカメラマンが振り返る「ブチ切れKO事件」と超努力家な“マネー”の実像
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2022/07/07 11:00
メイウェザーの試合のなかで福田直樹氏が「もっとも印象に残った」と振り返る2013年9月14日のカネロ戦。後の4団体統一王者をあらゆる局面で圧倒した
いきなり圧力をかけて若いメキシカンを萎縮させ、あとは一旦下がって自分の間合いでペースを操っていく。思い返せば3日前、記者会見のフェイスオフ撮影の際も先に一歩踏み込んでいったのはメイウェザーの方だった。そのおかげで睨み合いの位置が舞台のセンターからずれてしまい、いいアングルで写真が撮れなかった覚えがある。心理戦はその時から始まっていたのだ。
その上、守りと攻めの精度がいつにも増して高く、あの強いカネロを完全に手玉にとってしまった。若い頃に比べるとパンチの速度はさすがに若干落ちているが、かわりに相手の一手先を読む判断力がアップしていた。序盤で流れが見えてしまい、あとは私の方もメイウェザーの目線になって、カネロの攻めにカウンターを合わせるようにシャッターを押し続けた。
判定は2-0と発表されたが、イーブンにつけたジャッジが後に辞職を申し出た点からもメイウェザーの完勝ぶりがわかる。カネロが数年後、ボクシング界を背負うスーパースターになれたのもこの苦いレッスンがあったからに違いない。
超スピードスターとの対戦もクレバーに対処
他にもリッキー・ハットン(英国)、ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)、シェーン・モズリー(米国)、ミゲル・コット(プエルトリコ)等、錚々たる顔ぶれを破り、その度に超人ぶりを見せてきたが、もう一つ忘れられないのが、2006年4月にラスベガスで行われた IBFウェルター級のザブ・ジュダー(米国)戦。メイウェザーの対応力が存分に発揮された試合だ。サウスポーのジュダーは物理的なハンドスピードでメイウェザーの上をいく超スピードスターであったが、メイウェザーが苦しんだのは4回まで。珍しくガードを上げ、地味な右ショートでジュダーを着実に消耗させて、3−0の判定勝ちを収めた。
オーソドックス対サウスポーの撮影は、角度的に両者の顔が同時に見えるアクションを捉えるのが難しい。しかもスピード満点の2人である。その夜のキーパンチである主役の右ストレートをいい構図で捉えるのに苦労しつつも、メイウェザーの危機管理能力やクレバーなペース配分にとにかく感心するしかなかった。
メイウェザーが一段覚醒し、猛練習で培った底力、引き出しの多さをさらに示し始めたのも、このあたりからの気がする。10ラウンドに勃発した両陣営の大乱闘に巻き込まれ、ポケットに入れていた携帯電話を無くしてしまったのも、今となっては懐かしい思い出だ。