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「Jリーグ唯一の女性社長」だった高田春奈氏が味わったクラブ運営の難しさと“生きている実感”「いま振り返ると、すごく苦しかった。でも…」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2022/06/25 11:01
Jリーグ常勤理事就任にともない、高田春奈氏は2月末にV・ファーレン長崎の社長を退任。サポーターからは感謝のフラッグが多数掲げられた
クラブ社長として味わった「生きている実感」
――勝っても負けてもクラブを愛し続けるという文化があっていいはずなのに、それでも「昇格を目指す、優勝を目指す」と言い続けなければならないという難しさもありますよね。もちろん、目指したところで、思うような成果が得られないのが勝負の世界でもある。
「ずっと『J1昇格』というメッセージを発信し続けることの重要性も感じていましたし、地域に愛してもらえることに甘えて、本業であるサッカーをおろそかにしていいわけがない。『J2のなかではいい選手を揃えていたのに、そのわりに勝てない』とか『個の力はいいんだけどね』と言われるのを受け入れながらも、焦燥感や気苦労は常にありました。次に向けて何か手を打ちたいけれど、短期的な勝ち負けに自分が貢献できることはほとんどない、というのが苦しかったですね」
――社長業を務めていた2年間はずっとコロナ禍で、そちらの苦労も並大抵ではなかったと思います。惜しくも昇格こそ逃しましたが、2020年はJ2で3位、2021年は4位と健闘されました。シビアに結果を求められるなかで、スポーツが嫌いになる瞬間はありませんでしたか?
「それはまったくありません。むしろ自分の人生のなかで、最高に『生きている』という感覚を味わえた日々でしたね。いま振り返ると、すごく苦しかったのは確かです。でも苦しいことも含めて、『長崎の人とともに生きている』という実感があるんです。自分のことだけを考えていればいいのではなくて、背負っているものの大きさがあったからこそだと思います」
――2024年完成予定の新スタジアムを中心とした「長崎スタジアムシティプロジェクト」も注目を集めていますね。
「長崎県にはいくつもの名所や観光地がありながら、人口流出ワースト1が続いているなど課題がたくさんあります。それでも新幹線が通り、駅前の再開発も始まり、スタジアムができて、これから長崎自体が大きく変わっていく。そのなかでなんらかの役割を担えるように、これからもV・ファーレンには地域の希望を背負って戦っていってほしいです」