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「Jリーグ唯一の女性社長」だった高田春奈氏が味わったクラブ運営の難しさと“生きている実感”「いま振り返ると、すごく苦しかった。でも…」
posted2022/06/25 11:01
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
AFLO
クラブの危機に「経営体質を変えないといけない」
――2017年に経営危機に陥ったV・ファーレン長崎は、10憶円以上の支援を受け、ジャパネットホールディングスの100%子会社となったわけですが、経営に苦しむ地方クラブが多いなか、地元の企業がクラブを支えるというのは、ある種のシンデレラストーリーのように感じました。
「ずっと地元のクラブを応援し、サポートし続けてきましたが、何年も一緒にやってきたからこそ、ただお金を出すだけでなく、経営体質を変えないといけないと感じてはいたんです。大きなピンチに陥ったクラブをなんとかするべきだと、ジャパネットホールディングスの社長だった弟が覚悟を決めて、父にクラブの社長をお願いすることになりました。当時、父はすでにジャパネットグループの経営から退いていましたが、最初はとにかく発信力と求心力のある人間がトップに立たないと変わらない。なんとかもう一度、とお願いしました」
――当時、お父さまの熱いツイートは他クラブのサポーターの心にも響いていましたね。
「心からV・ファーレン長崎を愛している人なので(笑)。2017年にJ1昇格を成し遂げたあと、私も2018年からV・ファーレンの現場に関わるようになりましたが、サッカークラブもひとつの株式会社であるはずなのに、企業としての構造的な問題が数多くありました。労務管理や人材の教育制度など、ある意味で当たり前の“会社の基礎”の部分に、経営面を固めるうえで改善すべき点が多くて、そちらに注力する時間が長かったですね。それらは私がこれまでに経験してきたことの延長線上なので、サッカークラブという新しい環境であっても『入りにくい』という感覚はありませんでした」
――文字通り、会社の経営を立て直す役割を担われていたのですね。
「マイナスをゼロに戻すところからのスタートだったので、父も大変だったと思います。もともと引退していた人間を引っ張り出したのだから、それほど長くお願いするわけにはいかないという思いもありました。そこで、一緒に現場を見ていた私が社長を引き継ぐことになったんです。クラブの土台を立て直したうえで、私にパスをしてくれた父には感謝しています」