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「Jリーグ唯一の女性社長」だった高田春奈氏が味わったクラブ運営の難しさと“生きている実感”「いま振り返ると、すごく苦しかった。でも…」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2022/06/25 11:01
Jリーグ常勤理事就任にともない、高田春奈氏は2月末にV・ファーレン長崎の社長を退任。サポーターからは感謝のフラッグが多数掲げられた
「女性社長」としての苦労よりも…
――Jクラブのなかで唯一の女性社長ということで、性別を意識することはありましたか?
「女性社長であることに関しては、あまり違和感もプレッシャーもなかったですね。もちろん56クラブで1人しかいないというのは事実なので、そこになんらかの意味を与えられるのだろうな、という気はしましたけど(笑)。でも思ったほど、『女性だから』という理由でなにかを言われたり、求められたりしたことはありませんでしたね」
――サッカークラブの社長という仕事で難しさを感じたポイントは。
「V・ファーレンのスタッフにしても他クラブの社長さんにしても、必ずしもサッカーをやってきた人ばかりではないので、同じビジネスマンとしての感覚はシェアできるんですよ。ただ選手とのコミュニケーションについては、すごく難しいなと思いました。私は相手の年齢や立場に関係なく丁寧に接したいと思っているので、選手に対してもフランクな調子で『がんばってる?』と声をかけるのがあまり得意ではなくて……。年齢差や文化の違いもあるので、共通の話題も少ない(笑)。もっと激励してモチベーションを高められるような存在になれればよかったのですが、距離の作り方が難しかったですね」
――地域との関わり方や、必ず勝敗がついて回る点はいかがでしょうか。
「地域と密接に繋がるというのは、多くの人にJクラブの存在を受け入れてもらうために必須だという感覚があります。社会貢献というよりも、単純にクラブの存在価値を上げるために欠かせない活動です。地元を大切にすることで、スポンサーやサポーターは間違いなく増えていく。またV・ファーレンがあることによって長崎に住んでいる人に楽しみが生まれたら、日々の生活がより充実したものになって、たとえば県外へ出ていく若い人たちが長崎に残ったり、戻ってくる動機のひとつになるかもしれない。そこに関しては、私も長崎出身なのでナチュラルに取り組みやすいところでした。
とはいえ肝心のサッカーが強くならないと、やっぱりみんながっかりしてしまう。結果が出ないと明確にお客さんが離れてしまうんですよね。J1とJ2では経営や経済効果といった状況がまったく変わるという現実があるなかで、サッカーを強くさせることに関しては、思うようにならない難しさをずっと感じていました」