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JKとエディーは似ている!? 畠山健介が視た“革命期の日本ラグビー”と南ア撃破後の空席「あれから、ラグビーが面白いと思ったことはない」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAkio Hayakawa/AFLO
posted2022/06/22 11:01
史上最大のアップセットと呼ばれた南アフリカ戦など、日本ラグビーの進化を世界に見せつけた2015年W杯。畠山は堀江翔太(右)らとセットピースで抜群の存在感を放った
JK、エディーの両体制を知っている選手は限られる。両者のマネージメントを比較する畠山の視点が興味深い。
「ふたりとも、チームビルディングにおいてはお酒も積極的に活用していました。ただし、JKはスタッフも選手も一緒に楽しむことを好むんです。選手側としては、少なくとも僕はちょっと気をつかうんですよね、コーチたちがいると。その点、エディーはリーダー陣に会合を任せるので、ポジションごとの飲み会とか結構ありました。BKはサクッと終わってたらしいんですが、1番から5番までのタイトファイブの飲み会は……追加オーダーの嵐です(笑)。めちゃめちゃ飲んで、とにかくあの漢たちは熱かったです」
このチームで、畠山はキャプテンを務めた時期もあった。
「慣れないこと、向いてないことをやるもんじゃなかったです。それが分かっていたので、自分としては断りたかった。でも、『断っちゃうと、自分の評価が下がってしまうんじゃないか?』と不安になってしまう臆病者なんです。正直、何をどうしたらいいか分からなかったので、コミュニケーションを取らなきゃと思うと、それがToo Muchで逆効果になってしまったり……。難しかったですね」
しかし、選手としての自信は少しずつ深まっていった。
「ラグビーの世界でも、スタッツ、データが大きな意味を持つ時代になりました。ボールキャリーは数字として表れます。でもエディーは、雑誌のインタビューで『ここでラインブレイク出来たのは、順目に走って、相手ディフェンスを引き寄せたことでスペースが生まれた。ハタケはこういったプレーを頑張っている』と評価してくれたんです。ああ、数字やスタッツには出ないけれど、一生懸命プレーしていれば認めてくれる人はいるんだと。うれしかったですね」
ダルマゾと取り組んだスクラム強化
そしてチームのタスクとして取り組んだのが、スクラムの強化だった。フランスからスクラムコーチのマルク・ダルマゾが招かれたが、ターゲットとしていたワールドカップに勝つためには、セットプレーの安定が何としても必要だった。
「ワールドカップ前年の秋、ジョージア戦でスクラムがやられたんです。このままでは勝てないということで、個々人が鍛えるだけでなく、スクラムも改良に改良を重ねました。そしてワールドカップの直前に、最後の腕試しの機会としてジョージアとの再戦がありました。そこで、相手からコラプシングの反則を奪ったんですよ。もう、とにかく興奮して、雄たけびをあげました。そしたら、相手をいたく刺激してしまったようで(笑)。
次のスクラムでジョージアは反則気味に猛烈なプッシュをかけてきて、今度はこっちが反則を取られました。そしたら、トイメンの1番だけじゃなく、フランカーまでが自分の方を見て吠えてました。よっぽど、僕に対してムカついてたんでしょうね(笑)。スクラムってそれくらいプライドや意地がぶつかる局面なんです。ラグビーのアイデンティティのひとつ。この試合で、2014年秋に見つかったスクラムの課題が解決できていたことが分かったので、ワールドカップには自信を持って臨めたわけです」