球体とリズムBACK NUMBER
ウクライナ代表は「戦禍という視点抜きでも好チーム」だった… W杯の夢が消えて主将・ファンが号泣「あなた方のサポートが必要だ」
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2022/06/07 17:00
ウクライナの選手、そして一緒に入場した子供の中にもウクライナ国旗を身にまとう姿が
プレミアリーグを連覇したばかりのオレクサンドル・ジンチェンコとイタリアで着実に評価を高めるルスラン・マリノフスキという左利きの司令塔たちがチームを司り、レニングラード生まれの主将アンドリー・ヤルモレンコやクールな点取屋ロマン・ヤレムチュクらが仕留める好チームだ。
平常時に客観的に見ても、好感を抱かせる代表だ。加えて、最悪の事態からではあるが、特別な感情とニュートラルなファンの後押しがある。更衣室には、本当の戦場の兵士たちから送られた国旗を掲げたという。桧舞台への最後のハードルも、乗り越えられるはずだった。
だが最終的に、世界中のたくさんの人々が望んだ結果にはならなかった。この日も多くの時間帯でボールを保持したのはウクライナで(ポゼッション率は63%)、シュート数でもウェールズを大きく上回った(総数24対10、枠内9対2)が、相手のGKウェイン・ヘネシーが決定機をことごとく阻止。そして勝負を分けたのは、34分のフリーキックだ。ウェールズの主将ギャレス・ベイルが重そうなキックを放つと、ヤルモレンコが頭で防ごうとし、不運にもそれがオウンゴールとなってしまった。
先発の大半は母国クラブに所属する選手だった
ウクライナの先発の大半は、母国のクラブに所属する選手たちだった。彼らは昨年12月以降、スコットランド戦まで公式戦を戦っていなかった。危惧された試合勘やマッチフィットネスの欠如が最後は響いたようにも見えたが、ウェールズの殊勲者の2人、GKヘネシーとFWベイルも、また別の意味で今季は出場した試合が少なかった(どちらも所属クラブでレギュラーではなかった)。
では、雌雄を決したものは何だったのか。
「(ロジカルな結果かどうかは)わからない」と試合後にウクライナのオレクサンドル・ペトラコフ監督は声を絞り出すように言った。
「これがスポーツだ。片方のチームに運があり、他方にはなかったということだろう。私たちはできることのすべてをした。ウクライナの人々には、このチームの奮闘を覚えておいてもらいたい。得点できずに、申し訳ない。だがこれがスポーツであり、こういうことも起こりうる」