球体とリズムBACK NUMBER
ウクライナ代表は「戦禍という視点抜きでも好チーム」だった… W杯の夢が消えて主将・ファンが号泣「あなた方のサポートが必要だ」
posted2022/06/07 17:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
ウェールズの首都カーディフで決戦が行われた日曜日、ウクライナの首都キーウは約5週間ぶりにロシア軍からの空爆を受けた。ボクシングの元世界王者で現在は同市の市長を務めるビタリ・クリチコによると、「1人が負傷して、病院に運ばれた」という。
ロシア国防省は西側諸国からウクライナ軍に提供された戦車T-72を格納していた修理工場を標的にし、それを破壊したと発表しているが、攻撃を受けた施設に軍用車両はなかったようだ。2月24日に侵攻が始まってから100日以上が過ぎたが、今も悲劇は続いている。
ウクライナが国を守れると信じているから
それでも、フットボールの大一番は開催された。カタールW杯欧州予選のプレーオフは本来、3月に予定されていたが、ウクライナの試合だけ6月に延期。1日に敵地でスコットランドに快勝したウクライナは、5日にウェールズとのアウェー戦に臨んだ。おそらく、世界中の中立的なファンのすべてを味方につけて。
「スコットランド人を含む、多くの人々から激励してもらい、それが力になった」と前日の記者会見で、オレクサンドル・カラバエフは話した。この30歳のライトバックの出身地は、ロシア軍に占領されているウクライナ南部の街ヘルソンだ。今もそこにいる彼の家族は、「インターネットも電波もないので、試合(スコットランド戦)を観戦できなかった」という。
「それでも彼らはメッセージで連絡を取り合い、ニュースを読んでいる。6月2日は私の誕生日で、3日は母の誕生日だったから、それ(スコットランド戦の勝利)は良いプレゼントになった。報道を追ってくれている私の友人たちにとっても素敵なプレゼントになった。
ロシア軍に占領されてしまい、人々の生活は激変してしまった。しかし誰もがじきに普段の生活が戻ってくることを期待している。皆、ポジティブだ。私たちは戦争の推移を見て、ウクライナが国を守れると信じているから。
(スコットランド戦では、感情的になってもおかしくはない状況で冷静にプレーできていた?)自分はそう思わない。私たちにとっては、とてもエモーショナルなものだった」
客観的に見てもウクライナは「好チーム」である
スコットランド戦では巧みに主導権を握り、理想的にゴールを重ねて3-1の勝利を収めた。確かにそのパフォーマンスは、落ち着き払った強者のそれにも見えた。ただし当事者たちは、湧き上がる様々なエモーションを感じながらプレーしていたのだろう。