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コンビ結成は「インスタのDMから」…なぜ日本の女子選手は“ダブルスの名手”から好かれるのか?〈24歳柴原瑛菜が全仏制覇〉
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2022/06/05 11:05
杉山愛とブパシの優勝から23年、フランスのパリで開催されている全仏オープンで24歳の柴原瑛菜が日本女子3人目のミックスダブルス・チャンピオンになった
初のコンビで優勝と聞けば奇跡のように感じるかもしれないが、実はそう珍しいことではなく、平木&ブパシも杉山&ブパシも初ペアだった。今回の準優勝ペアも初コンビだ。平木とブパシは確かエントリーの締め切り前日に会場のプレーヤーズラウンジでブパシから声をかけたのだったが、それが二人の初めての会話だったという。
つまり、混合ダブルスの肝は戦術とかパターン練習とか小難しい話ではなく、フィーリングだ。男女がまるでエスコートしたりされたりするのを楽しむように、ワクワクしたフレッシュな気持ちでプレーしながら、 互いの技能をどれだけ発揮させることができるか———。
日本人選手たちが評価されてきた“2つの魅力”
23年前のニューヨークで、ブパシはパートナーとしての杉山の一番好きなところについてこう言っていた。
「彼女はコートでいつも笑顔なんだ。どんな状況でもね。それが僕をリラックスさせてくれた。ピンチの場面でもパートナーが微笑みかけてくれると、大丈夫なんだって気になるものさ」
奇しくも今回、準決勝を勝ったあとの会見でコールホフは柴原についてブパシと同じワードを使った。
「彼女はいつだって笑顔だ」
隣で柴原が照れくさそうに笑っていた。
そもそも柴原を誘った理由は、「パワフルでサーブもいいし、ネットの動きもいい。なんでもできる」というプレーにあったが、同じコートで戦ってその笑顔の力にも気づいたようだった。
平木も、昔も今も変わらずエレガントでやさしい笑顔の持ち主だ。日本の女性がみんなニコニコ笑っているわけではないが、少なくともダブルスで成功した彼女たちの共通点ではあるらしい。
ただ、日本女子がシングルスに比べてダブルスに強い理由を<笑顔>で片付けるわけにもいかないだろう。杉山は世界1位にもなったダブルスの名手だったが、たとえばこの全仏オープンでは2018年に穂積絵莉と二宮真琴が準優勝している。柴原と固定ペアを組んでいた34歳のベテラン青山修子も、グランドスラムのベスト4進出が3度あり、ツアー優勝は17回を誇る。
青山は154cmとツアーでもっとも小柄な選手のひとりだが、平木も157cmと小柄だった。二人に共通するのは両手打ちで、左右から繰り出す低軌道のショットは正確で、テンポが速く相手のタイミングを狂わせる。敏速で頭脳的でもある。また穂積と二宮は全仏で準優勝したとき、「海外の選手に比べて日本人はパートナーと一生懸命にコミュニケーションをとろうとするし、そこから自分のやるべきことを考えて、ゲームを組み立てていくのが好きなような気がする」と話していた。
一概にはいえないが、ダブルスで発揮される日本人の特性は緻密さと調和力といえるのではないか。柴原はアメリカ生まれのアメリカ育ちだが、間違いなくその良さを備えている。
日本の女子たちはなぜ日本の男子選手と組まないのか?
ところで、そんな日本の女子たちはなぜ日本の男子選手と組まないの? という疑問が巷ではあるそうだ。