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打てない焦り、コロナ感染…DeNA柴田竜拓が“一番難しいスタート”を乗り越えて気づいた「無理にポジティブにする必要はない」 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySankei Shimbun

posted2022/06/06 11:02

打てない焦り、コロナ感染…DeNA柴田竜拓が“一番難しいスタート”を乗り越えて気づいた「無理にポジティブにする必要はない」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

横浜DeNAベイスターズの柴田竜拓が今季初ヒットを放ったのは開幕して1カ月以上経った5月4日の中日戦(横浜)。プロ7年目にして一番難しい開幕スタートだった

 この日の巨人戦(横浜)、柴田はスタメンに抜擢されシーズン初ヒットへの期待は高まったが、残念ながら待望の1本とはならなかった。

「コロナから復帰の試合が、もうひとつの自分の開幕だと思って挑んだのですが、そう簡単には変わりませんでしたね」

 柴田はそう言うと苦笑したが、とにかく心掛けたのは自分を見失わないことだった。

「結果が出ようが出まいが、自分のやることは変わりません。変えなきゃいけないところもあるのでしょうが、ヒットが出なくてもやるべきことを続けることに集中していましたね。打てないからといって、投げ出してしまったらなにも残りませんし、それは浅いというか逃げているだけだと」

 この胆力。自分を戒めるように柴田はつづけた。

「もちろんプロなので結果を出さなければその場には居られないのですが、結果の出方というのか、同じヒットはヒットなんですけど、しかるべき過程がなければあまり意味がないと思うんです」

我慢の時期を超えて…待ちに待った初ヒットへ

 そして、ようやく待望の時は訪れる。5月4日の中日戦8回裏、守備固めとしてサードに入っていた柴田のこの試合初打席。「とにかく考えていてもしょうがない」と心のなかで思っていた初球だった。森博人が投じた真ん中低めに来た146キロのストレートを逆方向へ弾き返すツーベース。柴田にとってここまで今季12試合、38打席目にしてようやく出た待ちに待った初ヒット。無安打だったことを心配していたファンは歓喜し、また自軍ベンチも自分のことのように大いに盛り上がっていた。

 だが、意外にも柴田は塁上でひとり冷静だったという。

「初ヒットが出て、ホッとするということはありませんでしたね。あのときはもう次のことを考えていました。走塁をどうするか、次の回の守備をどうするか。試合は毎日ありますから次の打席をどうするのか。1本出たからといって、楽になるかといったらそういうわけではないので。もう次だなって」

 柴田のプロとしての矜持を感じられる言葉。シーズンをトータルで考えれば、ただのワンヒット。それに勝利に直結する一打でもなかった。

「1本出たところで、という感じですが、まあその1本を出すためにめちゃくちゃ時間が掛かったんですけどね」

 たかが1本、されど1本。柴田はそう言うと感慨深げな表情を浮かべた。

「なにかとポジティブじゃなきゃいけないと思っていた」

 その後、柴田はコンスタントに試合に起用され、5月だけを見れば18試合に出場し打率.293、出塁率.420、OPS.859と上々の成績を残して存在感を示すと、交流戦では主に2番を任され、粘り強いバッティングでチャンスメイクをしている。

【次ページ】 「なにかとポジティブじゃなきゃいけないと思っていた」

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