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佐々木朗希の起用法を「甘やかされてる」の苦言は今どきでない… 「完投を重視しない」新時代エース像〈大谷翔平もMLBで完投0〉
posted2022/06/07 11:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kiichi Matsumoto
4月10日に佐々木朗希が完全試合を達成して以降、日本のプロ野球は「対朗希対策」が最大のテーマとして浮上した。各球団の指揮官は日々「朗希をどう攻略するか?」を頭の片隅で考えていたはずである。
佐々木朗希攻略の先鞭をつけたのは、オリックスの1番打者、福田周平だ。4月24日の対戦で、佐々木の初球の速球を、短く持ったバットから一気に振りぬいて右前に運んだ。52人連続で続いていた「アウト」が途切れた瞬間だった。
以後、佐々木と対戦する打者は、福田に倣って高校生のようにバットを短く持ち、100マイルの剛速球に食らいついた。巨人の増田陸は打撃練習で5メートル手前から投げる球を打ったという。戦前、沢村栄治を攻略するために景浦將、藤村富美男らタイガース打線が行った練習と同じだ。
「佐々木朗希包囲網」で打ち崩した巨人打線
こういう形で「佐々木朗希包囲網」は、徐々に狭まっていき、6月3日の東京ドームで巨人打線がついに佐々木を撃沈した。ウォーカー、ポランコの外国人がフォークを狙い打ち、増田陸がタイムリー二塁打を打ったのも見事だった。そして最後は岡本和真が141キロのフォークを右中間スタンドに放り込んだ。
佐々木朗希の速球の質が少しずつ劣化していたとの報もあり、クイックになるとフォークが甘くなるなどの情報も飛び交ったが、佐々木朗希という稀代の剛腕投手が出現したことで、その攻略法をめぐってプロ野球は大いに盛り上がった。
ちなみにロッテの本拠地ZOZOマリンスタジアムでは佐々木が登板した試合は動員率87%、今年のロッテ主催試合の平均68%を大きく上回っている。
佐々木朗希にはさらなる進化を期待したい一方で、ベテランの野球関係者から「佐々木は物足りない」との声が上がっている。
昨年5月16日の一軍デビュー以来、佐々木は21試合に先発している。そのうち100球以上投げたのは3試合だけ。21試合で計1912球、129.1回、1試合平均91球/6.1回。「エースは先発完投」という観念がある人からは「甘やかされている」「これでは200勝はできない」という声も聞こえる。
佐々木朗希の「エース像」は従来と違うものに?
また「そのうち佐々木も、スタミナがついてエースらしい投球をするようになるよ」との声もあるが、筆者はそうは思わない。佐々木朗希はこれからも6~7回、100球以内、中6日程度で登板するのではないか。
なぜなら日米問わず、それが今の先発投手のスタンダードになりつつあるからだ。