普段から続けてきたルーティンをブレることなく黙々とこなす日々ではあったが、苦しんだからこそ学ぶことも多かった。また危機的な状況だから知ることも救われることもたくさんあった。この経験を糧にしなければ、意味はないと柴田は考えている。

　今季からDeNAのメンタルスキルコーチに就任した遠藤拓哉氏の言葉からは、固定観念を覆される眼からウロコの発見があった。

「よく世間ではポジティブがいいと言いますが、僕の場合はポジティブだと心に隙が生まれるようなんです。だから無理にポジティブにする必要はない、と。逆に用心深くなっているネガティブの状態時に結果を出すアスリートはたくさんいるから、それでいいんだよって。僕はなにかとポジティブじゃなきゃいけないと思っていたので、新しい自分というか、新しい思考が生まれましたね」

柴田と細川成也（春季キャンプにて）　©Nanae Suzuki

“お兄ちゃん”藤田から掛けられた一言

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　そして10年ぶりにDeNAに戻ってきた藤田一也。同じ内野手であり守備の名手。経験豊富な球界の生き字引である藤田は、柴田いわく「お兄ちゃん」のような存在だ。

「勉強になることばかりですよね。技術はもちろん、その考え方。よく一也さんが言うのは『守備が本当に上手くなれば、絶対にバッティングも良くなるから』ということ。見て勉強することもあれば、教えてくれることもあって、本当に引き出しが多いなって。一緒にノックを受けているとき『もっと上を目指してやっていこう』と声を掛けられたことは嬉しかったですね」

　そう言うと柴田はこの日一番の笑顔を見せてくれた。練習すること、プレーをすることが楽しくて仕方がないといった風情が柴田から垣間見える。その様子を目の当たりにし、まだまだやってくれるはずだと思わずにはいられなかった。

「まずは肉体が一番なので、しっかりとケアをしながら練習量を落とすことなく、シーズン中も上手くなるチャンスはあると思うので向上心を持ってやっていきたいですね。とにかくこんな順位で終わるようなチームだとは思っていませんし、目の前の一戦一戦に集中し、最高の準備をして、勝つためにひとつひとつプレーしていきたいですね」

　交流戦も残りわずか。暑さが徐々に増していく季節、ペナントレースの本番はここからだ。チームメイトに支えられ塗炭の苦しみから脱した柴田の躍動は、きっと戦況にいい影響を与えることだろう。