令和の野球探訪BACK NUMBER
「日本一過酷な代表争い」を突破した国立静岡大野球部の“3つの掟”とは? スポ薦ゼロ、エースが教育実習で不在でも全国切符をつかめた理由
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byShizuoka University
posted2022/06/04 06:00
中京学院大戦に先発した静岡大・加藤翔太(4年)。春季リーグ戦では8イニングのみの登板だったが、1失点完投でチームを大学選手権に導いた
この春は大学の新型コロナウイルスへの感染対策として、オープン戦が一切できないという逆境があった。勝手知ったる相手とのリーグ戦には予定通り出場できたが、初見となる県外のチームとの試合は東海地区選手権が今シーズン初めてだった。それでもチームを率いる高山慎弘監督(41歳)は「言い訳をしないというのがウチのルールですから」ときっぱり話す。
それを物語るように、高山監督が新入部員に渡す資料の「改革」という項には、“3つの掟”が書いてある。
1.国立大学だからという言い訳からの脱却「脱・国立」
2.古い常識からの脱却
3.勝者となり過去の弱い自分からの脱却
高校野球以上に私学優勢の大学野球において、静岡大の近年の活躍は目覚ましい。静岡学生リーグの上位進常連となり、昨秋も優勝。現在の3、4年生の代は2年前の新人戦で東海地区優勝も飾っている。
スポーツ推薦はゼロ、19年にはプロも誕生
スポーツ推薦も一切無い国立大としては数々の常識を破る実績を残している(一部の国立大にはスポーツ推薦ないし、それと同様の制度がある)。
中でも光るのが、人材輩出だ。昨季の2枚看板である井手駿と石田雄大の両右腕はそれぞれ東京ガス、西濃運輸と強豪社会人チームに進み、2019年には阪神の育成ドラフト2位で外野手・奥山皓太が指名され、静岡大史上初のプロ入りを果たした。その前後にも社会人野球や独立リーグに進む選手が続々と現れるなど、国立大ながら卒業後も「野球継続」を志す土壌が出来上がっている。
高山監督は東京で会社を経営しているため、平日は選手たちのみでの練習となるが、各自が意識を高く持って取り組む。その自主性は全体練習以外の時間も生かされ、アルバイトで貯めたお金でジムに通い、フィジカル強化に努める選手もいるという。大学院2年で、研究の傍らコーチ業も担う河本昌範は「各部員が自分の時間とお金を使って自己投資をしています」と部の文化を誇らしく語った。
そういった背景が今回の「エース不在の逆境」を乗り越えられた要因だろう。