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佐久長聖高校の監督に聞く“厚底シューズは高校部活をどう変えた?”「選手のモチベーションが向上」「指導者も故障対策への意識を持つように」

posted2022/05/31 11:00

 
佐久長聖高校の監督に聞く“厚底シューズは高校部活をどう変えた?”「選手のモチベーションが向上」「指導者も故障対策への意識を持つように」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

高校陸上の強豪・佐久長聖高校の高見澤勝監督に、厚底シューズの普及が与えた影響について聞いた

text by

加藤康博

加藤康博Yasuhiro Kato

PROFILE

photograph by

Yuki Suenaga

大迫傑をはじめ多くの有力選手を輩出してきた佐久長聖高校。監督を務める高見澤勝氏に、 “厚底シューズ”の登場が高校部活動に与えた影響、メリットやリスクについて聞いた。(全2回の特別インタビュー/後編へ続く)。

「私が初めてカーボンプレートの入ったシューズを手に取ったのは2019年の秋のことです。試しに履いて軽く走ってみたところ、かつてない前に進む感触がありました。それこそカーボンの力なのでしょうが、“これはものすごいシューズだな”と思ったのを覚えています」

 大迫傑(ナイキ)をはじめ、多くのOBを日本のトップへと送り出してきた高校陸上長距離界の強豪、佐久長聖高校。その監督、高見澤勝は初めて「厚底シューズ」を体感した時のことをこう振り返る。「とにかく驚きましたよ」と。

ナイキ「ヴェイパーフライ」の登場で高校陸上界も高速化

 ナイキが「ズーム ヴェイパーフライ4%」を発売したのが2017年7月。それが画期的なシューズだったことは今となってはもう語るまでもないだろう。男子ではエリウド・キプチョゲが、女子ではブリジット・コスゲイが世界記録を塗り替え、日本でも設楽悠太(Honda)、大迫傑が日本記録を更新した。彼らは全員、ヴェイパーフライを履いて記録を作った点で共通する。キプチョゲは発売前の2017年にこのヴェイパーフライのエリートモデルで非公認レースながらマラソンでの2時間切りに挑戦し、世界記録を上回る2時間00分25秒を出すなど早くから話題が沸騰し、入手困難な状況だった。その後、ヴェイパーフライはシリーズを重ねて改良されていき、高校生の手に渡り始めたのが、高見澤の話す2019年頃だった。

 この年の全国高校駅伝。エースの集う1区10kmでこの大会まで28分台で走った日本人選手は過去ただひとりだったが、この年は7人が28分台で走った。その多くの選手たちの足元にヴェイパーフライがあった。世界のマラソン、長距離シーンで進む高速化の波は高校にも及んだのである。

「リスクを負ってまで履く必要があるのか」

 しかしその大会前から、高見澤は厚底シューズの使用について慎重だった。

「シューズ自体は画期的で素晴らしいものであり、陸上界全体のレベルアップにつながりました。ただすでに使っていた選手や指導者からケガをしやすいという話も聞いていました。成長期にある高校生が履けば、そのリスクも当然、高くなるでしょう。果たしてそのリスクを負ってまで履く必要があるのかなというのが、正直なところでした」

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