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『ウマ娘』は98年「幻の日本ダービー」をどう描いたか? 競馬ファンが夢見たスペシャルウィークvsエルコンドルパサーは“衝撃の結末”に 

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屋城敦

屋城敦Atsushi Yashiro

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photograph byCygames, Inc./BUNGEISHUNJU

posted2022/05/27 11:01

『ウマ娘』は98年「幻の日本ダービー」をどう描いたか? 競馬ファンが夢見たスペシャルウィークvsエルコンドルパサーは“衝撃の結末”に<Number Web> photograph by Cygames, Inc./BUNGEISHUNJU

『ウマ娘』にはメインキャラとして登場するスペシャルウィーク。史実では日本ダービーなど、武豊とともにGIを4勝した名馬だ

史実では出走できなかった背景があるからこそ…

 一方で、完全なIF展開であるグラスワンダー、エルコンドルパサーのシナリオでは、より強いライバル心が表現されている。大和撫子のようなキャラクターとして登場するグラスワンダーは、かつてのマルゼンスキーにちなんだ“怪物二世”の名を背負わされており、ダービーは己の存在証明を懸けたレースになっている(史実と異なりケガはしていない)。しかもレース後にはそのマルゼンスキーに「“怪物二世”っぽいのはエルちゃんの方なのかも」と煽られ、さらに闘志を燃やすことに……。

 ラテン系の天真爛漫なキャラクターとして描かれているエルコンドルパサーは、誰よりも闘争心がむき出し。ダービーの前には、世界最強を目指すためには国内では負けられないという強い決意が見られる。しかし、結果は勝っても負けてもライバルたちの強さに自信が揺らいでしまう……という展開に。ここで初めてつまずきを覚え、その後の成長につなげていくというシナリオだ。

 内国産組のシナリオは、ダービーをライバル対決として描きつつも、自身を取り巻く人たちとの関係のほうがピックアップされ、そこまでテンションの高いものではない。一方の外国産組は、史実で出走できなかったという背景があるからなのか、ライバル心こそ内国産組より強めではあるが、こちらもあくまで成長過程の一部として描かれている。いずれも、正念場はシニア級(古馬)に控えているのである。

 後世から振り返ると、たしかに'95年世代の活躍のハイライトは古馬以降にある(セイウンスカイは古馬になってからGIを勝てなかったが)。正面から向き合うとどうしてもエグみが出てしまう、当時の出走制限問題をうまく避けながらまとめあげたという印象だ。

レースは実際のダービーを完全再現?

 そしてゲームでは育成モードとは別に“メインストーリー”というシナリオモードが用意されており、もうひとつの'98年ダービーが「夢の原石」というタイトルの中で描かれている。メインストーリーは概ね史実に沿った展開が楽しめるのが特徴で、「夢の原石」はタイトル通り“夢”をテーマにスペシャルウィークの競走馬生活を追った物語である。

 ここでのダービーは“誰もが憧れ、目指す特別なレース”という位置付け。スペシャルウィークはウイニングチケットやサイレンススズカ、かつてこのレースを走ったウマ娘たちや、セイウンスカイなどのライバルの想いにも触れながら、レースに向けて“自分が走る理由”を再確認していく。

 育成シナリオとは異なり、レースにグラスワンダーやエルコンドルパサーは登場せず、三強の対決が描かれる。進行は実際のレース中継をオマージュしたもので、バ群(馬群)の隊列や、キングヘイローの意表を突いた逃げ、直線に入ってのスペシャルウィークの強烈な抜け出しなど、両者の映像を比べて観てみるとその一致性に驚かされる。

 レース後には、勝利したスペシャルウィークをセイウンスカイ、キングヘイローが素直に讃え、その後の再戦を誓う爽やかなシーンが描かれる。ただ史実を忠実に表現すると生々しくなってしまう厳しい勝負の世界を、爽やかな学園ものという設定でソフトに表現し、競馬を知らない人にも感動してもらえるようにしているのだ。

【次ページ】 最後は一騎打ちに…アニメが描いた“衝撃のラスト”とは?

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