アニメ版では「3強vsエルコンドルパサー」

　『ウマ娘』の物語は、コンテンツ（メディア）ごとにパラレルワールドとなっており、テレビアニメ版（第1期5話）にて、'98年の日本ダービーはゲームとは違った形で描かれている。

　グラスワンダーは史実同様ケガで離脱しているため参戦していないが、エルコンドルパサーが出走。スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローの三強とともに“注目ウマ娘”の一角として登場する。

　テレビアニメ版のレースシーンでも、エルコンドルパサーの存在以外は史実を忠実に再現した展開が描かれていく。実況の内容やそれぞれの位置取りなど、当時の映像と見比べてみるとおもしろい。エルコンドルパサーの位置取りは中段後ろ（スペシャルウィークをマークする位置）である。史実での前走であるニュージーランドトロフィーのレース内容を参考にしたり、当時主戦だった“マーク屋”的場なら1番人気をにらんでこう騎乗する、と推測したからなのだろうか。

最後は一騎打ちに…アニメが描いた“衝撃のラスト”とは？

　そしてレース終盤、スペシャルウィークが抜け出した後、そこにエルコンドルパサーが並びかけてくる。負けられないふたりは叫びながら、周囲のスタッフや仲間たちの応援を受けて全力でゴール板を駆け抜け……。結果はなんと同着。そしてゴール後は、ゲーム版のメインストーリー同様お互いをたたえ合う、後味のすっきりした内容に。

　あえて白黒をつけなかったのは、誰もそれを望んでいないからなのかもしれない。出走していれば勝ち負けだったと、それだけ証明できればいい。そんな作り手たちの思いが伝わってくるかのようであった。

夕日を背負ったスペシャルウィークと武豊　©BUNGEISHUNJU

　史実をベースにした設定は共通ながら、メディアごとに物語や見せ方を変えて展開し、ファンを飽きさせない『ウマ娘』の戦略性は多くのファンを魅了しているが、'98年の日本ダービーもまた、その戦略によって時を超えて再評価されているようだ。これをきっかけに新しいファンと最強世代論争を楽しめるようになったというのは、競馬ファンを続けてきてよかったと最近つくづく思えることである。

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