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ノーザンファームの男たちが語る"歴代最強のダービー馬”「2冠馬ドゥラメンテは集大成」「ディープの仔は馬房を出た瞬間にわかる」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/05/29 06:00
第82回日本ダービーを制したドゥラメンテ(2015年)
――平成13年のダービー馬ジャングルポケットの母ダンスチャーマーは米国産ですね。
中島 これも代表がセリで購入してきました。普通、セリでは入念に下見をしてから買うのですが、この馬は、代表がパレードリングを回っているのを見て、「ヌレイエフの肌馬(繁殖牝馬)がこんなに安いのか」とパッと手を挙げて買ったんです。その後、日本でトニービンをつけて生まれたジャングルポケットは、特に素晴らしいと評価されたわけではありませんでした。
吉田 5月生まれと遅かったし、トニービン産駒って、あまり見栄えがしないんです。そんなに目立たず、みながダービーを期待したような馬ではなかったですね。
中島 いいと思うようになったのは札幌3歳S(旧馬齢)を勝ってからです。当時主戦騎手だった千田輝彦調教師は牧場まで何度か乗りに来て「これは走りますよ」と。
――平成16年のダービー馬キングカメハメハはどうでした?
中島 こちらは生まれたときからいい馬で、次の日に代表が見て「またダービーを勝ったな」と。代表があそこまで言うのを聞いたのは、あとにも先にもこの馬だけです。
吉田 お母さんのマンファスは、ぼくが父と一緒に米国のキーンランドのセリに行き、65万ドルで落札しました。キングマンボの仔(キングカメハメハ)がお腹に入っているというのも魅力的なポイントでした。
――同世代の生産馬にはディープインパクトの全兄のブラックタイドがいました。
中島 あの馬も生まれたときから目立っていて、体も大きく、動きも抜けていたので、評判はよかったです。牧場内ではキングカメハメハより上と評価されていました。
吉田 キンカメが勝ったダービーは、期待を持って臨みました。NHKマイルCで強い勝ち方をしましたから。あのダービーは、みんなが早めに動いてバテバテになるなかで突き抜けるという、まさに種牡馬選定戦という感じの、タフなレースでしたね。
「ディープの仔は馬房を出た瞬間にわかる」
――その翌年、平成17年の三冠馬ディープインパクトも、牧場時代はもっと評判のいい馬が他にいたんですよね。
吉田 ええ。デイリー杯2歳Sなどを勝ったペールギュントや、ジャパンCダートなどを勝ったヴァーミリアンのほうが完成度が高かったです。
菅谷 空港牧場にも菊花賞2着のアドマイヤジャパンや、皐月賞2着、ダービー3着のシックスセンス(追分ファーム生産)など、いい馬がいました。
吉田 この世代は日米のオークスを勝ったシーザリオや、桜花賞馬ラインクラフトなど、牝馬も走りましたね。調教もそうだし、生まれたときの管理や育成、調教など、いろいろ上手く行った年だった。
中島 もっと目立つ馬がいたことは確かですが、ディープインパクトもいい馬でしたよ。放牧地での動きも、人を乗せたときのバネも。ただ、小さかったので、すごいと言う人があまりいなかった。ディープの武器はやわらかさで、脚元の軽さは名馬のそれですよね。現役を退いたばかりのフランケル(14戦無敗で引退した英国の名馬)を見に行ったときも、ディープに似ているなと感じました。ディープの仔は馬房を出た瞬間にわかります。脚元が軽い馬が来たなと思ったら、ディープ産駒なんです。