Number ExBACK NUMBER
表面化しづらい男子性被害の実態…「気が付いた時は、服を脱がされてた」とある男性が告白する“中学バレー部時代の消えない記憶”
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph byGetty Images
posted2022/05/15 11:02
写真はイメージです。本文とは関係ありません
ひとつめは「男らしさ」の刷り込みだ。ニッポン男児と呼ばれるように、男は強くあらねばと抑圧される文化が被害を訴えるハードルを上げる。
高峰は言う。
「暴力根絶宣言がされてから2022年で10年目になるが、部活での暴力はいまだに散見される。男子の競技や武道に多い印象だ。その背景には、体罰を受けても歯を食いしばって頑張るというようなことを『男らしさ』として、選手自身が受け入れてしまう風潮があるのではないか」
性被害を受けた男子を、男らしくない、弱々しい存在ととらえる社会の偏見はなくならない。被害男子は「こんなことをされたダメなオレ」と人格を崩壊させられるため、女子以上に周囲に訴えるハードルが高くなる。性被害に遭った女子には「隙があったのでは」「同意のうえだろう」といったスティグマ(偏見)がつきまとうが、男子は先に記したように「弱いヤツ」というスティグマに苦しむ。
その2)「男性は被害に遭わない」という社会の思い込み
2つめは「男性は被害に遭わない」という社会の思い込みがある。日本の指導現場で暴力や暴言がはびこる実態を調査し、報告書『数えきれないほど叩かれて』を2020年に日本政府へ提出した国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)でグローバル構想部長を務めるミンキー・ウォーデンさんは「男子への性虐待は世界的な問題だ」と訴える。
「少女だけでなく、少年もまた性虐待を受けやすいのに、報告されづらい。(少年への)すべての虐待が明るみにならないのです。ハイチの調査では、ハイチのナショナルフットボールチームで子どもの頃に虐待を受けた男性の何人かにインタビューしたが、彼らには虐待によるPTSDが残っていた」
#MeToo運動を機にカミングアウトしたり、賛同する声をあげるのは女性が多い。被害男性たちの「僕も」は一部で報道されたものの、その数は圧倒的に少ないのが現実だ。
その3)「強くあって欲しい」保護者世代の性へのタブー視
そして3つめが、保護者世代の性へのタブー視だ。女子は母親に訴え、母親も率先して救うが、男子は異性の母親には言いづらい。母親、父親ともに「息子には強くあって欲しい」と願っていることを痛いほど知っている。なぜならば、自分自身が「強くあらねば」というスティグマに縛られているからだ。
「性虐待を予防するためにも、保護者は男らしさにこだわらず、自分の子どもも被害に遭うかもしれない可能性を考えてほしい」と高峰は助言する。
以上のような実態を理解し、性虐待を嫌悪する社会を形成する必要があるだろう。そのためには、指導者も、保護者も、子どもの時分から主体的な子どもの育成を目指してほしい。強い主従関係があると支配する側はエスカレートしていく。だが、主従関係のない環境で主体的に考えて動けるアスリートを育てることを主眼に置けば、そこにセクハラや性暴力が生まれる余地はない。