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「もう一回やり直せ!」12歳息子は目の前で土下座を繰り返した…なぜ親は“暴力監督”を止められなかった?「全国大会に行けなくなる」
posted2022/05/15 11:01
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph by
Getty Images
スポーツライターの島沢優子氏が、そんな“スポーツ毒親”の姿をレポートした『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)から一部を抜粋して紹介する。(全3回の2回目/#1、#3)
「〇〇地方大会はあのクソの6年男子で出て優勝します」
中止になった全国大会の決勝が実施されるはずだった、8月のお盆前のことだ。猛暑日のうえ、線路と住宅に挟まれた体育館のため窓開け禁止。風が通らず、子どもたちは滝のような汗を流しながら練習をしていた。
「酷い暑さなのに内容もめっちゃハードでした。全国大会が中止にならなければ決勝の日だったからでしょう。先生の怒鳴り声はいつも以上でした。私ら大人でさえ汗かきながらボール拾いして、頭がぼーっとなりそうでした。子どもたちは飛んだり跳ねたりしてますから、体力も頭の回転も限界だったと思います。2本連続で簡単なミスが出た時点で、監督が怒って帰りはったんです」
翌日から、一切練習を見てもらえなくなった。子どもたちは毎日謝りに行ったが、そのたびに罵声と人格否定ともいえる暴言を浴びせられた。そこで出てきたのが、以下のような罵詈雑言の数々だ。
「おまえらの顔見てたらヘドが出る」
「今まで毎日嫌やったけど、我慢してきた」
「おまえらが負ける姿見るんが楽しみやわ」――。
練習が行われないまま3週間ほど経過した頃、親たち全員が呼び出された。近く地方ブロックの大会があるので出場するという。
「〇〇地方大会はあのクソの6年男子で出て優勝します」
6年生の指導を放棄していたのに、地方大会の開催が決まると手の平を返す。Aの一方的な宣言と汚い言葉に、親たちは打ちのめされた。「こんなことまで言われて続けさせていいのかな」と毎晩のようにどこかで会っては話し合うようになった。
マネージャー親が訪問「先生に土下座して謝ってくれ」
勝手な宣言の後、チームのマネージャーを務める卒業生の保護者が、突然玲の自宅を訪ねてきた。キャプテンをしている息子の圭太に「先生に土下座して謝ってくれ」と言う。
「明日から先生は地方大会に向けて練習再開してくれると思うねん。その前に圭太君が土下座したら先生は練習に入ってくれるから。ちゃんとできる? できるな?」
マネージャーからという体裁をとってはいるが、それは監督からの要請だと親たちは考えた。だから、チームの中でも真面目な圭太に白羽の矢が立ったのだ、と。
「先生は練習を再開するためのきっかけが欲しかった。それが土下座やったんです。ずっと練習しないで地方大会があるから練習を再開するというのは、女子チームに対しても示しがつかない。うちの子たちが土下座してでもやりたいと言ってきたっていうストーリーが欲しかったんやと思います」(真理)