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表面化しづらい男子性被害の実態…「気が付いた時は、服を脱がされてた」とある男性が告白する“中学バレー部時代の消えない記憶”
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph byGetty Images
posted2022/05/15 11:02
写真はイメージです。本文とは関係ありません
ふたりの1年生と同級生はジュースを飲んだと聞いた。同級生に後日「どうだった?」と声をかけたら「眠たくなって寝てしまった」という。ビデオも何を観たか覚えていないという。
「でも、気が付いた時は、服を脱がされてた」
全裸ではなかった。でも、裸にされていたというのだ。うつむくチームメイトに、それ以上何も言えなかった。
「向こうも、もう尋ねてくれるなという雰囲気だった。一緒に帰ろうと誘えばよかったとすごく後悔しました」
被害を“タブー”にする親たち「大人はコソコソしてた」
ほどなくして、顧問からコーチが辞めたことを聞いた。だが、やめた理由についての説明はなかった。しばらくして、そのコーチが複数の部員にわいせつ行為を働いていたと噂になった。
「狙われる子どもはちょっと天然というか、やさしくて、ふわっとした子が多かった気がします。しっかりしている子は狙われない」
噂だけで、親たちは子どもたちに何も言わなかった。
「僕自身、仲間を見捨てたという後悔の念にずっとさいなまれてきた。なんで自分だけ帰ったんだろうといううしろめたさというか……。どれだけ心の傷を負ったかと思うと申し訳ない」と荒川は視線を落とす。
複数の生徒がそんな目に遭わされていたことがわかったから、コーチは解任された。それなのに、子どもには何も知らされなかった。
「大人はコソコソしてた気がします。完全にタブーだった。大人たちもまさか男の子に? と、信じられない気持ちだったのでしょう」
荒川がそんな経験をした1980年代は、性暴力は「性的いたずら」と呼ばれていた。いたずらという軽い響きとひらがなの語感は「ちょっとさわった、みたいな印象でしたね」と荒川も言う。性的なことがタブー視された時代、問題は矮小化されていた。
男子アスリートが被害を言い出しづらい“3つの理由”
男子選手の性被害について、スポーツ環境におけるハラスメントを研究する明治大学政治経済学部教授の高峰修は「女子よりも男子の性被害が潜在化する可能性は高い」と示唆する。
圧倒的な主従関係や、密室になりやすい指導環境は、男女とも変わらない。それ以外に、男子アスリートが女子以上に被害を言い出しづらい理由は3つある。