スポーツまるごとHOWマッチBACK NUMBER
《新庄ビッグボスが導入で話題》バラエティでも使われる“超高級”バーチャル投球マシン、何がそんなにスゴイの?「本体だけで280万円」
posted2022/05/08 06:01
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
KYODO
フラフープを通す遠投や武井壮、室伏広治臨時コーチの招聘など、サプライズ盛りだくさんだったファイターズ沖縄キャンプ。その2日目には新庄剛志BIGBOSS自らが導入を決めたバーチャル投球マシンが話題となった。
タイガース藤浪晋太郎の映像に合わせて繰り出されるストレートに、ファイターズの打者たちは大苦戦。これは株式会社キンキクレスコが開発した「ユーティリティーエース」というマシンで、スポーツバラエティ番組『とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』でも活躍中。価格はマシン本体が280万円、映像機器は100万から200万円する(いずれも税別)。投球マシンとしては、最新鋭かつ最高級の逸品だ。
キンキクレスコが丸紅、日立製作所とともに、日本初となるバーチャルの投球マシンの開発に着手したのは1993年。それは全国のバッティングセンターに普及していった。
プロ投手ならではの“伸び”も完全再現
ユーティリティーエースはその後、プロ野球界でも重宝されるようになる。苦手投手克服のため、2015年に採用したバファローズをはじめ、多くの球団がキャンプに導入するようになった。だが、その道は平坦ではなかった。同社営業部長の武田隆之介さんが言う。
「3社で共同開発したマシンをある球団のキャンプに持ち込んだところ、打席に立った打者がストレートを見て首をかしげているんです。どういうことかコーチ陣にたずねたところ、プロ投手ならではの伸びがない、軌道が落ちていると指摘されたのです」
軌道の垂れ。それはプロでなければ気づかないような、微妙なものだった。だが妥協を許さずマシンの開発に努めてきた同社は、この欠点の解消に真正面から取り組む。
「金沢大学の協力を仰ぎ、質のいいボールの回転を追求しました。プロが投げる球筋は一般の人とは違い、終速に向けて加速し、浮き上がるように見える。その軌道をどう実現するか。闇雲に回転数を上げても、バランスが悪ければスリップを起こしてしまう。従来、ボールに回転を与える3つのホイルをYの字にしていたのですが、試行錯誤の結果、Yの字を天地逆さにすることで理想の軌道を実現することができたのです」
文章にすれば、わずか数行。だが現実には10年以上の歳月を費やしたというのだから、これはもう執念の賜物というほかない。
プロの厳しい要求から逃げず、全力で応える技術者、研究者たち。彼らもまた、日本野球の発展を力強く支えているのだ。