猛牛のささやきBACK NUMBER
絶対に負けたらあかん…前キャプテンが明かす“大阪桐蔭の重圧”「正直、楽しめなかった」オリックス池田陵真が後輩たちに伝えたこと
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2022/04/09 06:00
4月2日ウエスタンリーグで2ランを放ったルーキー池田陵真。ドラフト5位でオリックスに入団した
「試合が終わって、たぶん昼前ぐらいにホテルに着いて、ミーティングをして、それぞれ部屋に帰りました。たぶん1時ぐらいだったと思うんですけど、僕はそれからずっと部屋で、テレビもつけずシーンとした状態で、ただボーッと『あー、終わったんか』とか『あん時ああしとけばよかったな』とか考えていたら、5時間ぐらい経っていて、気づいたら6時。食事の時間になっていました」
食事会場では誰一人話さず、重たい空気の中うつむいて黙々と食べた。
その夜、西谷監督は忘れられない光景に出会う。ホテルの練習会場で、池田が1人、バットを振っていたのだ。
「センバツで負けた日の晩は何人か振っていました。夏に向けてこのままじゃいかん、という、それはわからんでもない。でも池田は、夏の甲子園で負けた日の夜も振っていました。さすがに僕もその日はへこんで、『あーー』と思いながら見に行ったら、1人で振っていたので、あーちょっと違うなと。たいしたもんだなと思いました。それぐらいの人ですね。なかなかここまでできる子は最近いないです」
練習の虫が集まる大阪桐蔭の中でも、池田は群を抜いていた。池田をどうやって休ませようかと、監督が思案したほどだ。
「今日は休んだほうがいいなと思って、チーム全体で(練習の強度を)落とした日も、『そんな落としてる場合じゃない』と言うんですよ。池田を一番休ませようと思って僕はそうしたのに(苦笑)。『パンクしないかな?』と心配して強制的に練習をやめさせても、僕がわからないところでガンガンやっている。結局、この子には言っても一緒だなと思って、『ダウンだけはしっかりやろう』という方向でアプローチすることにしました」
昨年はスタンドにいた星子主将
それだけやっても、甲子園には微笑んでもらえなかった。
その先輩たちの姿を見ていたのが、今春、圧倒的な力を見せつけてセンバツを制した選手たちだった。
この春、大阪桐蔭打線は大会新記録の11本塁打を記録し、準々決勝17点、準決勝13点、決勝18点という大量得点を奪って優勝したが、今大会のメンバーのうち昨夏の甲子園を経験していた野手は、捕手の松尾汐恩だけだった。他の野手は池田たちの代に阻まれてベンチにすら入れなかった。
星子天真主将は昨夏、甲子園のスタンドから、先輩たちが敗れる姿を見て衝撃を受けた。
「『あの先輩たちが負けるんだ』という驚きがすごく大きかった。じゃあ、力のない自分たちはもっともっとやらないといけない」
それが現チームの原点だ。「泥臭く」「束になる」を合言葉に、昨秋から勝ち続けた。
その後輩たちを見ていた池田はこう語っていた。
「自分らがあまり勝てなかったんで、1個下の代は少し気持ちが楽にやれるんじゃないかと思います。練習を見ていても、自分らはピリピリした雰囲気があったんですけど、今はすごくいい雰囲気でできています。自分のプロでのシーズンも始まるんですけど、センバツもすごく楽しみです」