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「いつ解雇されるか分からない恐怖心」「何回も何日も何時間も、繰り返して」パイレーツ筒香嘉智の生き方に大きな一石を投じた“マイナー時代の苦闘”
 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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posted2022/04/09 11:02

「いつ解雇されるか分からない恐怖心」「何回も何日も何時間も、繰り返して」パイレーツ筒香嘉智の生き方に大きな一石を投じた“マイナー時代の苦闘”<Number Web> photograph by Getty Images

昨季、筒香はドジャースで結果を出せずに、マイナー契約となった。そこから這い上がって、今季はパイレーツで開幕を迎えた

「(マイナーの選手は)なりふり構わず本当に目の前のことを必死にやる。選手はいつ解雇されるか分からない恐怖心で毎日、プレーをしている。その環境に身を置いて、僕自身も感じるものがありました」

 筒香の生き方に大きな一石を投じることになったのがこのマイナーでの経験だったわけだが、ドキュメンタリー映像「Road to L.A.」は、そのマイナー降格直後の7月15日からピッツバーグ・パイレーツへの移籍が決まった8月15日までの32日間の密着ドキュメンタリーである。

筒香が見た、激しい生存競争を繰り広げる生身の選手たち

 レイズをDFAとなってドジャースに移籍したが、なかなか結果を残せずたどり着いたオクラホマシティー。メジャー再昇格を目指して苦闘する中で、筒香がまず見たのは厳しい環境の中で、激しい生存競争を繰り広げる生身の選手たちの姿であり、自分を取り巻く現実だった。

 マイナーで活躍していた選手がメジャーに昇格していったが、すぐにまた舞い戻ってきた。きょうもまた、選手が1人、チームからいなくなった。

 そんな緊迫した現実の中でトレード期限の7月30日までにメジャーとの契約を目指す様子や、結果的に期限内に契約が取れずに落胆する姿などが克明に映像として残されている。

 このドキュメンタリーを制作した辻本和夫監督は2018年、19年と21年に横浜DeNAベイスターズを追いかけたドキュメンタリー映画の監督を務めた映像ディレクターだ。筒香とはDeNA時代の18年と19年に作ったドキュメンタリー映画「FOR REAL」の制作を通じて信頼関係を築き、単なる選手と映像ディレクターという以上の親交を結ぶようになっていた。その関係からメジャー移籍後も、独占でドキュメンタリー制作を許された経緯がある。

ホテルでの洗濯やレンタカーを運転する姿も

 筒香のメジャー移籍後はコロナ禍などもあり、なかなか渡米もままならなかったが、筒香にとってはマイナー落ちというエポックメイキングな出来事に、急遽、アメリカにわたって密着取材をスタート。だからこそ本当の筒香のマイナーでの生活……例えばホテルでの洗濯や日本食をデリバリーして食事をする様子、またレンタカーを自分で運転して遠征に出かける姿など、まさにそこには日々の生の筒香が映し出されている。

 もちろん筒香ほどの年俸を稼ぐ選手なら、たとえマイナーでもお金を出せばホテルや飛行機の座席のアップグレードはできる。食事も毎日、ステーキを食べることだってできたはずだ。

【次ページ】 「何回も何日も何時間も、これ見えないな、これ見えないな」

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