プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「いつ解雇されるか分からない恐怖心」「何回も何日も何時間も、繰り返して」パイレーツ筒香嘉智の生き方に大きな一石を投じた“マイナー時代の苦闘”
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byGetty Images
posted2022/04/09 11:02
昨季、筒香はドジャースで結果を出せずに、マイナー契約となった。そこから這い上がって、今季はパイレーツで開幕を迎えた
「でもそれをしたら意味ないなと思って、全部、マイナーの選手と一緒にしてくれって言いました。そういう経験をして、そういう世界を知ることができたことが自分にとっては良かったなと思っています」
オフの取材でそう語っていた筒香の言葉通りの生活が、このドキュメンタリーの中にあった。
7月末のトレード期限に移籍先が見つからなかったものの、その後もエージェントとミーティングを積み重ねながら、移籍先を絞っていく様子はまさに密着取材の醍醐味だ。そしてパイレーツが接触してきて、メジャー昇格への光が見えたときの筒香の揺れ動く表情の変化など、グラウンドでは見ることができない姿がこのドキュメンタリーでは描かれている。
それは筒香ファンだけではなく、アメリカで野球をやるということの1つの現実を垣間見るという点でも、メジャーリーグファン、野球ファンにとっても興味深いものとなっている。
「何回も何日も何時間も、これ見えないな、これ見えないな」
冒頭の筒香の語り。
その中で面白い表現がある。
「何回も何日も何時間も、これ見えないな、これ見えないな、こうかな、ああかなというのを繰り返していく中、初めて『これかもな』というのがやっと、ちょっと見えてくるんですよ。そのちょっと見えたのを“つまめるか”どうかなんです」
これが筒香が感じる自分が成長するということの実感である。ただ、その一瞬に巡ってきたものを“つまむ”ことができなければ、もう二度と同じものを見ることはできない。だからこそその一瞬を逃さないために、自己と向き合いながら、日々の準備があるということだ。
マイナー落ちしたオクラホマシティーで、筒香はやっと「これかもな」と見えたものをしっかり“つまむ”ことができた。結果的にはそこで逃さなかったことが、メジャー再昇格へのターニングポイントとなるわけである。
その後のパイレーツでの活躍は周知の通りである。その実績によって、筒香は新たにあえて1年契約という選択をして、2022年のシーズンをメジャーの舞台で迎えることができた。
そんな苦難の道を選択する筒香の背景が詰まったマイナーでの激動の32日間。そのリアルがドキュメンタリー「Road to L.A.」にはある。
URL:https://vimeo.com/ondemand/roadtola
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。