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野球クロスロードBACK NUMBER
2試合で被安打3…大阪桐蔭・前田悠伍は、なぜビッグ4で一人勝ちできたのか? 近江の打者が語った“他のピッチャーとの明確な違い”
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2022/04/05 17:26
大阪桐蔭の背番号11を背負う前田悠伍。高校生BIG4の中でも突出したプレーを見せた
自分で「変化球でかわしながら抑えた」という現実と向き合う。「真っすぐあっての変化球」とストレートの質向上を一番に挙げたシーズンオフ。前田はマウンドのピッチャープレートからホームベースまでの18.44メートルからさらに離れた、20~23メートルの距離からのピッチングを重点的に行った。
「そこから100%の力でいいボールを投げられれば、18.44メートルに戻せばより強いボールが投げられるんで」
狙いはそこにあった。キレのあるボール――ストレートの質の高さを具現化するには、バランスの良いピッチングフォームが求められる。
秋を経て「力むと上体が前に突っ込んでしまう」ことを課題とする前田にとって、力強いストレートを投げることとフォームの再構築はイコールだ。軸足の左足でしっかりと重心を保ち、股関節など下半身を使いながら無駄のない動作をものにできれば、距離が長くなってもボールは沈むことなくキャッチャーミットに収まる。市和歌山戦で、前田はその手応えを「少しずつ掴みつつある」と言った。
「強い真っすぐを投げる感覚を徐々に掴めている感じはしていますけど、まだまだ上げていかないといけないというか。でも、『いけるな』っていう実感はあります」
昨夏敗戦の近江戦。「絶対に負けられないと」
甲子園初登板から3日後の3月31日。前田は再びマウンドに君臨した。
舞台は決勝戦。相手は近江。前の試合と同じように緊張はないが、高揚感はある。出身地の滋賀の高校で、何より昨年夏にこの場所で先輩たちが土を付けられた宿敵でもあった。
「去年、近江高校さんに負けて、『絶対に借りを返す』じゃないですけど、チームを勝たせるピッチングを心掛けました。自分の地元のチームでもありますし、絶対に負けられないと思っていました」
マウンドでの落ち着き払った表情。仁王立ちのような風貌から、ノーワインドアップでスピンの効いたストレートを投げ込む。
バッテリーを組む先輩キャッチャーの松尾汐恩が、ミットから後輩の気迫を受け止める。
「気持ちの強いピッチャーなんで、自分も同じように強い気持ちでリードしました」
中学時代の先輩談「いいピッチャーになっていた」
バッテリーが意思を通わせ、近江打線と対峙する。スピードよりコントロール重視。しかし、打席から見たボールは、そんな印象を超越するほどの圧力があった。