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トミー・ジョン手術の希望者が中高生で急増…医師が警告する“高校野球の球数制限”「医学的にもう少し厳しくすべき」 

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長田昭二

長田昭二Shoji Osada

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/03/22 17:00

トミー・ジョン手術の希望者が中高生で急増…医師が警告する“高校野球の球数制限”「医学的にもう少し厳しくすべき」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

数多くのプロ野球選手が受けてきた靭帯再建術のトミー・ジョン手術。近年、中高生がこの手術を希望する事例が増えているという(写真はイメージです。本文とは関係ありません)

 先にも触れたとおり、ひじの靭帯損傷について見れば、MAXが150キロの投手が130キロで投げれば痛みは出ないが、MAXが130キロの投手が同じ130キロで投げれば痛みは出る。つまるところ、制限すべき球数には個人差があり、「△球まで」と一律の枠で括る性格のものではないのだ。

「一人ひとりの選手のひじの状態をきちんとモニタリングして、『こんな症状が出たら△日休ませる』とか、『この筋肉が硬くなってきたら△球までしか投げさせない』という個別の対応が必要なのです。専属のトレーナーがいるプロと違って、高校野球や少年野球でそれを行うのは監督や指導者なのですが、残念ながらその知識が現場の指導者に浸透していないのが実情です」

 この状況を危惧した山崎医師は、横浜高校野球部の渡辺元智元監督や、慶應義塾高校野球部の上田誠前監督らとともに「神奈川学童野球指導者セミナー」という組織を設立し、県内の少年野球の指導者に向けて野球ひじに代表される故障を未然に防ぐための啓蒙活動に力を入れている。

「こうした取り組みが行われているのは全国的に見ても珍しく、野球人口の多い神奈川県で、野球ひじの発生率が下がれば、この取り組みの重要性を全国の指導者にも理解してもらえるはず。これは最もわかりやすい“予防医療“なのです」

行政や競技団体が率先して取り組むべき重大問題である

 医療技術が進化して、たとえがんになっても生還する人は増えた。しかし、それより大事なのは「がんにならないこと」であることは明らかだ。

 高校野球や少年野球の選手のひじも同じこと。大掛かりなTJ手術の心配をする前に、ひじを痛めないこと、ひじのダメージを蓄積しないことを考えるべき。

 その重要性を、手術の第一人者が手弁当で説いて回っている現状はどうなのだろう。むしろ行政や競技団体が率先して取り組むべきなのではないだろうか。

 未来の大谷、未来のダルビッシュの芽を、大人が摘んではいけない。

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