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トミー・ジョン手術の希望者が中高生で急増…医師が警告する“高校野球の球数制限”「医学的にもう少し厳しくすべき」

posted2022/03/22 17:00

 
トミー・ジョン手術の希望者が中高生で急増…医師が警告する“高校野球の球数制限”「医学的にもう少し厳しくすべき」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

数多くのプロ野球選手が受けてきた靭帯再建術のトミー・ジョン手術。近年、中高生がこの手術を希望する事例が増えているという(写真はイメージです。本文とは関係ありません)

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長田昭二

長田昭二Shoji Osada

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Hideki Sugiyama

 1974年に当時ロサンゼルス・ドジャースの主力投手だったトミー・ジョン投手の左ひじ靭帯損傷に対して、チームドクターを務めていたフランク・ジョーブ医師が行った腱の移植手術に端を発する「トミー・ジョン(TJ)手術」。

 1979年には、前年にひじの故障に見舞われていたロッテオリオンズの三井雅晴投手が渡米し、ジョーブ医師の執刀により日本人で初めてのTJ手術を受け成功している(その後のリハビリに失敗して完全復活はならなかった)。その後、1986年にこの術式が医学雑誌に載ったことから急速に普及拡大。日本でもいくつかの施設がこの手術を導入し、多くの選手が国内でTJ手術を受けられるようになった。

 現在、日本でこの手術を最も多く行っているのが、横浜南共済病院スポーツ整形外科部長の山崎哲也医師。靭帯を傷めたNPBの選手の多くが山崎医師による靭帯再建術を受けている。

意外と知らない「トミー・ジョン手術」はどんな術式か

 靭帯損傷というと「靭帯が断裂して連続性がなくなっている」と思われがちだが、これは誤解だ。靭帯損傷と診断されるケースの大半は、長期間にわたるひじの酷使によって“損傷(傷み)”が蓄積している状態で、完全に断裂して連続性がなくなっているのはむしろ稀なことなのだ。

 その上でTJ手術の流れを見ていこう。

 まず、患者の手首から長掌筋という筋(すじ)の腱を13~15センチほど切除して採取する。次に患部のひじを切開し、損傷している靭帯をタテに割くようにして割れ目を作る。その割れ目に手首から採取した腱を二つ折りにして挟みこむ。上腕骨(肩からひじ)と尺骨(ひじから手首)の接合部にドリルで穴をあけ、移植した筋を医療用ネジで固定する。

 移植した筋は時間の経過とともに靭帯に成熟、つまり「自分化」されていくことで、損傷した靭帯の代わりに機能していく――という仕組み。断裂した靭帯を縫い合わせるのではなく、酷使されて弱っている靭帯を補強する手術なのだ。

  ちなみに手首から採取する長掌筋は、人間が進化する過程で退化していった組織と考えられている。切除しても周囲の別の筋が補ってくれるので、日常生活で困ることはほぼないとのこと。

 それどころか、全体の約2割の人には、長掌筋そのものがない。患者自身に長掌筋がない場合は足の筋を使ったり、最近は腱を移植するのではなくポリエチレン製のインターナルブレースという人工靭帯を使うケースもある。

【次ページ】 TJ手術が「レベルの高い選手が受ける手術」である理由

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