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ウチムラの演技が海外カメラマンも驚かせた理由…キング内村航平、美しさのウラに“常人離れ”した練習量「自分の体が動く限りは…」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAsami Enomoto
posted2022/03/12 06:01
最後の大会となった昨年10月の世界選手権でも離れ技のブレットシュナイダーに挑んだ
世界中のカメラマンを驚かせた理由
フィジカル的なピークは、内村自身が「ゾーンに入っていて、すべて思い通りにできた」と振り返る'11年世界選手権(東京)からロンドン五輪にかけてだ。鉄棒の離れ技「屈身コバチ」を繰り出す高さは圧倒的。どんな大技でも常につま先までピンと伸びた姿勢は、一瞬を切り取る世界中のカメラマンをして「ひざやつま先が緩んでいるカットが一枚もない」と驚嘆させ、「美しい体操」は内村の代名詞になった。
円熟期を迎えたロンドン五輪後は「僕の跳馬の終着点」と位置づけた大技の「リ・シャオペン」を完成させたほか、得意種目である鉄棒で難度をどんどん上げていった。体格的にあまり向いていないつり輪でも、「力技で魅せることを怠ったらオールラウンダーじゃないと思うんですよね」と言い、努力を惜しまなかった。10代の頃から苦手としていたあん馬は「6種目の中で一番多く練習している」と言い続け、これも克服した。指導者たちは「航平はオールラウンダーの域を超えた。6種目のスペシャリストと言っても過言ではない」と賞賛した。
キャプテンとして臨んだ圧巻のリオ五輪
こうして迎えたのが男子団体チームのキャプテンとして出場した'16年リオデジャネイロ五輪だ。「体操は団体で勝ってこそ。なぜなら、喜びが個人の戦いの何倍にもなるからです」と仲間を背中で引っ張り、時には言葉で鼓舞した。厳しい練習を乗り越えながら結束を強めていった仲間とともに'04年アテネ五輪以来12年ぶりとなる団体金メダルを獲得したのも、ハイライトの一つだ。そして、団体金から2日後。今度は個人総合で連覇を果たした。五輪史に残るオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)との激闘で、勝敗を分けたのは最終種目の鉄棒の着地。マットにピタリと両足を突き刺した内村は拳を掲げ、静かに目を閉じながら恍惚の表情を浮かべた。
その後はけがに悩まされ、'17年以降は世界大会で個人総合のタイトルを手にすることはなかったが、その中でも進化は止まらなかった。'20年には種目別鉄棒に絞ることを表明し、その分、難度を大幅に上げ、世界屈指の大技であるH難度の離れ技「ブレットシュナイダー」に挑戦したのだ。振り返れば、北京五輪で演じた離れ技はF難度の「コールマン」(現在はE難度)が最高だったが、ロンドン五輪ではG難度の「カッシーナ」を入れ、リオデジャネイロ五輪では離れ技全体の難度をさらに上げた。