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「注射打ってまでやっているのは、なんなんだろうって」キング内村航平の“超ハイレベルな引退試合”に隠された後輩へのリスペクトとは
posted2022/03/20 11:01
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Asami Enomoto
オリンピックの体操競技で男子個人総合連覇を含む金メダル3個、世界選手権男子個人総合6連覇など数々の偉業を達成し、“キング”と呼ばれてきた内村航平(ジョイカル)が、3月12日の東京体育館での引退イベント「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」で約3年ぶりに個人総合の全6種目を演じ、現役生活に終わりを告げた。
「自分からやると言ったのに後悔」
大会前の調整期には、「自分からやると言ったのに後悔するほど6種目はしんどい。引退を発表したのに病院に通って、注射打ってまでやっているのは、なんなんだろうって」と、しかめ面になるほどだった。妥協のない調整をしてきたのは最後の最後まで「美しい体操を思う存分見せたい」(内村)からこそ。集まった約6500人の熱心なファンを前に持ち前の美しい体操を披露し、万雷の拍手を浴びた。
イベントでは世界選手権で見られるような華やかな照明による演出や、各種目3人ずつの選手選抜など、どの項目にもぬかりのない配慮が感じられた。細部まで「見せ方」「伝え方」にこだわっている様子が伝わってきた中で、特に内村の思いがダイレクトに響いてきたのが「ゆか」「跳馬」「鉄棒」だった。
ゆかで見せた“猫のような”着地
最初のゆかは、内村自身が「一番得意」と自負する種目だ。ここ数年は鉄棒を武器としてきたが、初の五輪出場となった2008年北京五輪の時は、代表選考会前の戦略として、当初はゆかを中心とした貢献ポイントでメンバー入りすることを想定していた。春先からの急成長により、個人総合で競うNHK杯で2位となって代表入りしたが、日本代表デビュー時の武器はゆかだった。2012年ロンドン五輪の種目別ゆかで手にした銀メダルは五輪の種目別で唯一のメダルでもある。
今回のイベントでは内村最大のこだわりポイントである「着地」でも魅せた。終末技で後方伸身宙返り3回ひねりの着地をピタリと止めた姿はため息もの。英国メディアから「猫のようだ」と言われていた、吸い付くような着地だった。