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那須川天心戦へ、武尊の仕上がりに不安? エキシビションで「軍司のパンチをもらっているようでは」の声も…“正面突破”がカギに
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2022/03/09 11:00
2月27日、軍司泰斗とのエキシビションを行った武尊
“那須川戦のシミュレーション”ではなかった
このエキシビションは那須川戦に向かうためのものではあったが、といって“仮想・那須川天心”というものではなかった。那須川戦のシミュレーションとは違うのだ。
インタビュースペースでの武尊は、軍司との攻防について「ずっとサウスポー対策をしていたので」難しいところがあったと語っている(その上で、軍司の力を認めていた)。
那須川はサウスポースタイル。右足を前に構え左のパンチ、蹴りがより強い。サウスポーの相手と対戦する際は、たとえばスパーリング・パートナーもサウスポーの選手になる。右利きの選手が左に構えたりもする。
軍司は武尊と同じオーソドックス(右構え)だ。普段ならやりやすいはずだが、サウスポー対策に没頭していたから感覚が違った。まして軍司はK-1王者だ。単に“相手役”に甘んじるつもりはなかったし、公式戦同様にしっかり仕上げてきてもいた。そう簡単に攻略できるものではないだろう。
「軍司のパンチをもらっているようでは…」との声もあるが
軍司のパンチをもらったことについては「それが武尊なのだ」と言うしかない。前に出て殴るのが武尊のファイトスタイル。アグレッシブだから隙も生まれやすい。そのことは武尊自身も分かっていて、分かった上で試合を構築していく。
スピードやテクニックでは自分が一番だとは思わない。だが気持ちでは負けない。前に出ながらのパンチと下がりながらのパンチでは、絶対に前者のほうが強い。だから前に出る。相手を殴り、相手が殴り返してくることも含めて戦術を練る。それが武尊だ。軍司とのエキシビションでもそうだった。
もちろん「軍司のパンチをもらっているようでは、那須川が得意とするカウンターも簡単に当てられてしまうのではないか。それに武尊は耐えられるのか」という危惧もあるだろう。だが“うまさ”で勝負して那須川に勝てる選手がいるとも思えない。むしろ武尊スタイルの“正面突破”にこそ可能性が見出せるのではないか。今回のエキシビションは、武尊が武尊として自分を貫くという宣言だったのかもしれない。
武尊自身は、コンディション作りを大きなテーマとしていたようだ。武尊は55kgから始まって57.5kgのフェザー級、60kgのスーパー・フェザー級でタイトルを獲得した。一方、那須川のベストウェイトは55kg。試合の契約体重は58kg(前日計量)に決まった。もう一つの条件は「当日4kg戻し=62kg」だ。前日計量後のリカバリーで体重を戻しすぎないようにする(体重差が広がりすぎないようにする)ための措置である。