オリンピックPRESSBACK NUMBER
元五輪審査員も驚き「審査の軸がショーンから歩夢になっていた」…平野歩夢23歳“金メダルを引き寄せた”3つの軸とは
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2022/02/12 17:02
ソチ、平昌に続く3度目の五輪、スノーボード男子ハーフパイプで悲願の金メダルを獲得した平野歩夢(23)
ハーフパイプでは難度、完成度、高さ、着地、構成を各ジャッジが100点満点で採点している。各トリックに決められた点数があるわけではないからこそ、その評価は絶対的なものではなく、他の選手と比較しての相対的なもの。ジャッジの心証の中で、序列一番を占めておくことは、直接的ではなくとも有利に働く可能性がある。
「タイミングで点数を出しているわけではありませんが、やっぱり魅せる競技なので、出走順でも変わってくる。実際、公平には見ているんですけど、見せ場、持っていき方で若干点数は変わってくると思います。例えば転倒者が続いている状況でバチっと決めれば印象度は強くなるものなんです」
ハーフパイプがショーであり、エンターテイメントの要素を孕みながら発展してきたものであるならば、それは必ずしも否定されるものではないのだろう。
平野も4年前の苦い経験からそうした傾向をすべてわかっていたに違いない。
4年前の大逆転負け「金と銀の色を分けたものは何か?」
前回の平昌五輪、決勝2回目に五輪史上初めて4回転の連続技を決めるという離れ業を演じた平野は、95.25を叩き出してトップに立った。3回目は転倒してスコアを伸ばせず、あとは最終滑走のショーン・ホワイトを待つだけだった。
その土壇場で3度目の金メダルを目指すアメリカのスーパースターが底力を見せる。平野と同じく連続での4回転技を成功させ、ルーティンを最後まで通し切った。得点は平野を2.5点上回る97.75。平野の方が難度、完成度ともに勝っていたという声もあったが、決勝最後の3回目、かつ最終滑走という“場”がもたらす力を最大限に生かしたショーン・ホワイトに凱歌が上がった。
試合後の会見で平野に「予選で1位通過する必要は感じていなかった?」と尋ねると、少し思案してから「まずはしっかり予選を通ることだけを考えていた」と答えた。金と銀の色を分けたのは、事前には考えもしなかったそんなディテールだったのかもしれない。
“採点の軸”としての立場を固めて決勝に臨んでいた
今回は違った。予選では1回目で2位につけて決勝進出を確実としたが、2回目には平昌五輪の決勝時と同じレベルまで難度を上げた。「上の位置を取りたいなと思って、できる限り攻めた」と狙い通りにトップ通過。予選に臨むスタンスは4年前とは確実に変わっていた。
トリプルコーク1440を事前に見せていたのも布石だったようにも思える。これまで誰も成功していないトリプルコーク1440を昨年12月の大会で初めて着地。五輪本番まで出し惜しみすることなく1月のW杯などでもトライし、いつでも出せる準備があることをアピールしていた。