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元五輪審査員も驚き「審査の軸がショーンから歩夢になっていた」…平野歩夢23歳“金メダルを引き寄せた”3つの軸とは
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2022/02/12 17:02
ソチ、平昌に続く3度目の五輪、スノーボード男子ハーフパイプで悲願の金メダルを獲得した平野歩夢(23)
「なんかこう、『心から楽しむ』っていうようなものは、東京五輪を経験した今もあるわけではないです。みんな結構しんどい思いをしてやらなきゃいけない。そこで得られるものになってくると思いますね」
ただ、スケートボードで同じく金メダリストとなった堀米雄斗もこんなことを話していた。
「覚えるのに2、3年かかる技もあります。やりたい技がずっとできない時は練習が辛くなるし、怪我をした時もすごく辛い。でも技を覚えた時の嬉しさが全てに勝るんです。だから最後はどれだけスケボーのことが好きか、みたいな話ですよね。辛い時もあるけど嫌々でやっているわけじゃない。好きだからこそ辛くても全然大丈夫っていうのかな」
幼少時代に同じスケートボードの大会に出ていたこともある“盟友”に、堀米はSNSを通じて「歩夢おめでとう」と祝福のメッセージを贈った。
彼もまた辛さや苦しみと日常的に向き合いながら自分の滑りを磨き上げてきた金メダリストだ。他人からは苦行にしか見えないようなこともすべてひっくるめて“楽しい”と感じられるメンタリティーが成長の糧。あらゆる限界をプッシュし続ける平野の姿勢も根底にあるのはきっと同じものだろう。競技化の度合いは違っても、頂点を極めるものには共通点がある。
「新しい貫き方というのが出てきていると思う」
そして、それはおそらく横乗り系だけでなく、他の一流アスリートにも通じている。五輪代表内定会見で“二刀流”をキーワードに、大谷翔平について聞かれたとき、平野は「(野球は)あまり分からない部分もある」と前置きした上でこう答えていた。
「新しいことに挑戦して、それを貫くのは難しいこと。ちょっと前ではありえなかったことが、そういうスタイルだからこそ、人として認められたり、新しい貫き方というのが出てきていると思う。これからのためにもいい影響を与えているんじゃないかなと客観的に感じています」
それはまさに平野自身のことを言っているようにも聞こえた。
逃げ場のないハーフパイプという“戦場”から解放され、スケートボードでどこか牧歌的な競技との関係性を楽しんだ後は、また新たな限界点を求めて雪上に戻った。しかも東京五輪が1年延期されたことにより、夏から冬までの準備期間はわずか半年。その間に誰も成功させていなかった4回転の『トリプルコーク1440』という過激な武器まで携えていた。
元五輪審判員「今はたぶん歩夢が軸になっている」
「100点満点の中で、トップの選手が100点であるぐらいが理想の採点。これまではショーンがトップの基準になっていました。もし他の選手に100点満点を出して、そのあとにショーンが(もっとすごい滑りを)決めてきたらどうするの? という流れがあったんです。今はたぶん歩夢が軸になっていますね」
前回まで5大会連続で五輪のジャッジを務めた横山恭爾は、今回の決勝を前にそう話していた。