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なぜあのキングオブコント王者は昨年“M-1で準々決勝敗退”したのか? かもめんたるが本音で語った「漫才とコントの決定的な差」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/02/06 17:00
かもめんたるの岩崎う大さん(43歳)。2013年キングオブコント王者。昨年はM-1に出場し、準々決勝まで進出した
う大 そこは明確になりましたね。要するに「素の自分に近い人間」を演じればいいんだ、と。舞台に上がるとき、まず、そのスイッチを入れて、あとは別人のままずっと話している感じです。そこがはっきりしたことで漫才も演じることの延長に置くことができた。これは僕にとって、とても大きいことだったんです。あとね、話がちょっと逸れちゃいますけど、漫才って、正面を向いて笑いを受けられるじゃないですか。コントをやっていて、真正面から笑いを浴びるって、あんまりないんですよ。そこもぜんぜん違ったな。楽しいし、気持ちいい。劇団イワサキマキオ時代は、こんな気持ちになったことがなかったから、よっぽどウケてなかったんですかね。ただ、今回も3回戦はやばかったなぁ。ウケの量が。絶対、落ちたと思いましたもん。
――ちなみに、漫才のネタを作るときは、コントネタをそのまま漫才にしたりすることもあるのですか。
う大 やろうとしたことはあるんですよ。会社のオリエンテーションでドッヂボールをすることになって、自意識高い系のサラリーマンが、当てられたとき、どういう顔で外野に行けばいいのかわからないって悩むネタがあったんです。何でもない顔をするのも絶対カッコつけていると思われるし、かといって、素直に悔しそうな顔をするのもいつもの俺と違い過ぎるし、みたいな悩みを同僚に相談するコントで。そもそもは、うちの母親が、あのネタを漫才にしたらいいんじゃないの、ってアドバイスしてくれたんですけど。
「嘘を本当に見せる」コント、「話を盛る」漫才
――確かに、聞いてると、もうそのまま漫才にできそうな気がしますね。
う大 ただ、その悩みをサラリーマン役の2人が議論してるコントと、素の自分という前提の芸人同士が舞台上で議論する漫才、どっちがおもしろいかといったら断然、コントなんですよ。説得力がぜんぜん違うので。漫才だとネタのためのネタというか、無理やりネタにしてる感じがしちゃうというか。
――いかにも、という感じになってしまうわけですか。
う大 簡単に言うと、嘘を本当のように見せるのがコントなんです。だから、リアルに感じてもらうために、作り込んで、作り込んで、少しでも客が引っかかるような要素は極力、省いていかなければならない。一方、漫才は、表現が難しいんですけど、本当のことを材料にして、それを嘘を交えながら膨らませていく作業だと思うんです。話を盛るというか。
結婚して初めて知ったんですけど、うちの嫁、とんでもない癖の持ち主だったんですよ、とかね。結婚は本当だけど、癖の話は誇張したり、嘘をでっち上げたりする。でも結婚は本当のことなので、説得力は失われないわけですよ。だから、漫才にそもそもフィクションとして作ったものを持ってきたら、嘘で嘘をつくるみたいなことになりかねない。ドッヂボールのネタは漫才にできないことはないし、どちらかというと漫才にしやすいネタだとは思うんですけど、コント以上にならないことがわかっているネタでM-1を目指すというのは、さすがに違うだろうと思ったんです。
コントは「密室」、漫才は「お客さんの前」
――逆はありますか。つまり、漫才でつくったネタだけど、これはコントでもいけるな、という。