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《センバツ不可解選考》が高校球界に落とした暗い影…複数投手で東海準優勝→落選では「何のための球数制限だったのか?」 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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posted2022/02/01 17:04

《センバツ不可解選考》が高校球界に落とした暗い影…複数投手で東海準優勝→落選では「何のための球数制限だったのか?」<Number Web> photograph by KYODO

センバツ選考で落選し、上村敏正監督のもとに集まる聖隷クリストファーの選手たち

 新チームの結成からまだ間もない秋の段階でエースが離脱することが、どれだけチームにとって痛手であるかは推して知るべしだろう。

 チーム自体に経験が乏しい中で、エース以外の投手陣で大会を戦わなければいけない。浜松商、掛川西を甲子園に導いた経験がある聖隷クリストファーの指揮官・上村敏正監督はおそらく、腹を括ったに違いない。「今大会は失点を覚悟した戦いをしなければいけない」と。これがたとえ、惨敗に終わったとしても、エース以外の投手を育成する機会になる。それくらいの覚悟があったはずだ。

 その中で、準々決勝・準決勝は9回に逆転勝ちをするという奇跡的な勝ち上がりを見せた。

 エースの故障という怪我の功名だったとはいえ、チームが「個」に頼らないまとまりを見せての戦いぶりだった。

 そのチームが「投打で物足りない」と判断されたのだ。

 野球という競技にはさまざまな役割がある。エースが全力を出せる環境を作るのが理想だが、チームを結成して間もない秋の時点では物足りないことが多い。言い換えれば、できないことが多いのだ。

 だから、しっかりと役割分担をして、チームとして結束する。

 野球に限らず、スポーツに限らず、組織というのはチームで戦うものだ。社会に出てから学ぶことを、野球を通じて経験できるからこそ、高校野球が教育の一環だと言われる所以だろう。

何のための“球数制限”だったのか?

 そして、この決定がもたらす問題としてもう一つ、考えなければいけないことがある。

 それは球数制限だ。

 2020年から高校野球で球数制限が設けられた。1週間500球の“超甘規定”だが、それでもこの制度の意味は大きく、どの高校も複数投手の育成が余儀なくされている。その意識を高めることにこそ、この制度の意義がある。

 そのため、全国の多くの学校は新チーム結成から試行錯誤をしている。相手に得点差をつけてから2番手投手を起用するのか、格下とみるやエース以外にチャンスを与えるのか。起用法は指揮官の裁量によるが、複数投手を育成するため、勝利や失点を犠牲にすることを考えながら采配を振っているのだ。

【次ページ】 聖隷クリストファー「センバツ落選」の大きすぎる影響

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