酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
なぜ日本人初大リーガー、2000安打達成者や水島新司先生が野球殿堂入りしてないのか… 「一人でも多く表彰を」と願うワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News/Sports Graphic Number
posted2022/01/25 06:00
プロで偉大な実績を残した谷沢健一、大島康徳、佐藤義則は殿堂入りしていない。ぜひ偉大な野球人を表彰してほしいものだ
今年の表彰委員は363人だったから、投票総数は2541票になるはずだが、実際には81%に当たる2062票だった。1人平均5.7票。
またプレーヤー表彰から洩れた野球人を再度選考するエキスパート表彰の表彰委員は、今年、5人から6人に票数が増えた。これによって1人平均の票数は2021年の4.2票から4.6票に増えたが、それでも満票の77.4%に過ぎなかった。そしてエキスパート表彰での選出は2年連続でなかった。
「いやそうは言っても、殿堂入りの資格ありと判断できる野球人がそれだけしかいなかったんだから」
と言うかもしれないが、委員個々の見識はあるにせよ、客観的に見て数字がレベルに達しているなら票を入れるべきではないかと思う。特にエキスパート表彰の対象者は高齢化しているのだ。
投票に参加していない委員がいるという事実
もう一つ残念なのは、エキスパート表彰で150人中4人、アマチュア野球人などを選出する特別表彰では14人中3人の表彰委員が、投票に参加しなかったこと。
今季、野球殿堂博物館は初めて、競技者表彰の表彰委員のリストを発表した。その中には新聞記者などとともに殿堂入りした先輩野球人の名前もあった。
MLBでは殿堂入りした野球人が選考委員になることについて「自分の価値を維持するために殿堂入り野球人を選出することに消極的なのではないか」との意見が出ているが、そうした疑念を抱かせないためにも積極的に投票権を行使してほしい。
野球殿堂入りは、すべての野球人にとって最高の栄誉だ。小さい頃から野球一筋に打ち込んで競争に打ち勝った選手の中でも、ほんのわずかしか選ばれることはない。
そして下世話な話かもしれないが――「殿堂入り」の肩書が付けば、名誉以外のメリットもある。講演料も上がるし、社会的ステイタスも上がるのだ。
“球史に貢献した野球人を1人でも多く”殿堂入りを
プロ野球の選手年金制度は2011年に破綻している。MLBでは10年以上プレーすれば60歳から楽に生活できる年金をもらえるが、NPBの選手はひとたび球界を離れれば、何の補償もなくなる。名のある野球選手でも事業に失敗するなどして、経済的に困窮するケースが少なくない。
見方を変えれば、殿堂入り表彰は、野球界に大きな貢献をした野球人に、ステイタスを付与することで一定の利得を与える制度と言えなくもない。
NPBのプレーヤー表彰で、表彰委員が投票することができる人数は、7人ではなくMLBと同じ10人に引き上げるべきだろう。
またエキスパート表彰、特別表彰についても「表彰委員は、厳しい基準で殿堂入り候補をはねつけるためにいるのではなく、球史に貢献した野球人を1人でも多く殿堂入りさせるために存在している」のを再確認すべきではないか。
40歳代で早々に殿堂入りする野球人がいる一方で、その選手とそん色ない成績を残しているのに、70歳代半ばで殿堂入りを、心待ちにしている野球人がいる、半ばあきらめながら――という現実をできるだけ速やかに解消してほしい。
野球を愛するファンの一人として、切に願う次第だ。