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ベーブ・ルース「女性は脆すぎる」 野球の神様を三振させた投手は“性差別”で引退…米大学野球を目指す女性豪州リーガー17歳の未来は?
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by球団公式Twitterより
posted2022/01/25 11:00
1月8日に、豪州野球リーグでデビューを飾ったメルボルン・エイシズのジェネビーブ・ビーコム投手(17)
MLBに生まれた「女性進出」の大きな潮流
デビュー戦でビーコムの速球は最速84マイル(約135キロ)を計時したそうで、落差の大きなカーブやチェンジアップなども披露している。今後もトレーニングを積んで、たとえば平均時速90マイル(約145キロ)以上の速球を投げられるようになれば、その目標もより現実的になる。
それは単なる希望的観測ではない。今の米国社会が2020年のBlack Lives Matter(対黒人差別反対運動)が他の人種的、性的少数派への差別に反対する機運に拡大して以来、「女性のチャンス拡大」という点においても「追い風」が吹いていて、その余波がMLBにもしっかり届いていると感じるからだ。
同年、キム・アングがマーリンズでMLB史上初の女性ジェネラル・マネージャー(GM)に就任し、アリッサ・ナッケンがジャイアンツの常駐コーチとなったのは偶然ではないし、レッドソックスが史上初の黒人女性ビアンカ・スミスをマイナーリーグのコーチに抜擢するなどして、昨季開幕時には計23人の女性のマイナーリーグ・コーチが誕生したのも、男性優位のMLBに女性が進出する大きな潮流が起こっているからである。
ただし、その潮流に乗るには、確固たる実績が必要になる。ビーカムの豪州リーグと前後して、ヤンキースが傘下のマイナーA級タンパの新監督に、前マイナーコーチのレイチェル・バルコベックの起用を発表した。彼女の経歴を見れば、マイナーリーグの監督就任も「遅すぎる」ぐらいだ。
バルコベックは高校時代、ソフトボールとサッカー、バスケットボールの「スポーツ三刀流」選手だった。大学時代はソフトボール部で捕手をしながら、運動生理学やスポーツ・マネジメントの修士号を取得しており、その後もカージナルスのファーム組織でストレングス&コンディショニングの責任者を務めたり、オランダの大学に留学して人間運動学の修士号を獲得するなど、意欲的に自分の可能性を広げていった。だから彼女は、監督就任を「アメリカンドリーム」としながらも、「本来の目的は何なのか」を見失わず、プロフェッショナルとして捉えている。
「私の目標は若者を育て、他のコーチたちをサポートすることです。彼らが成功できる環境を作っていきたい」
「史上初の女性メジャーリーガー」も夢ではない?
指導者ではなく、野球選手としての未来を築き上げようとしているビーカムにとっても、それは同じだ。まずは豪州リーグで実績を残すこと。それが次に目指す米国の大学野球に充分なものであれば、スカラーシップ(奨学金)を獲得するのも夢ではないだろう。そして、もしも彼女が大学野球でドラフトの対象になるような活躍をしたら、今はナンセンスに思える「史上初の女性メジャーリーガー」も夢ではなくなるかも知れない。