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[「初タイトルの一手」を語る(2)]深浦康市「執念はセオリーを越えて」

posted2022/01/22 07:08

 
[「初タイトルの一手」を語る(2)]深浦康市「執念はセオリーを越えて」<Number Web> photograph by Hirofumi Kamaya

text by

内田晶

内田晶Akira Uchida

PROFILE

photograph by

Hirofumi Kamaya

これでは勝てない――。読みを切り替えようにも、残り時間はわずか。そんなときに目の前に現れた一筋の光明に懸け、男は脳をフル回転させた。

 深浦康市は五段時代の'96年、24歳でタイトル初挑戦を果たしたときに奇策を用いたことを「浅はかな考えだった」と今もって反省している。第37期王位戦で七冠を保持していた羽生善治王位に挑戦。居飛車本格派で最新形を追い求めていた深浦が、第1局の初手に端歩を突いたことが話題になった。しかし、結果は羽生王位の圧勝。完敗を喫したうえに、兄弟子の森下卓八段(当時)から「志が低い」と厳しい叱責を受けた。

「羽生さんと自分とでは経験の差があまりに大きい。それを埋めるために力戦に誘導しましたが、こちらのバランスが崩れてしまっては本末転倒でした」

 それから2度目のタイトル戦登場まで、実に11年もの歳月を要することになる。ただ、その間も“打倒! 羽生”を胸に抱き、地力強化に努めていた。

 そして誰もが認める素質を開花させる時がきた。八段まで登りつめた'07年の夏、第48期王位戦で挑戦権を獲得し、羽生善治王位と再戦したのである。

 前半戦を3勝1敗で折り返し、タイトル獲得まであと1勝と迫った。圧倒的優位な状況ではあったものの、第5局、第6局と連敗を喫してしまう。

 最終局に持ち込まれたことで流れが悪いと見られがちだったが、これについては真っ向から否定する。

「タイトル戦であっても将棋は一局ずつの勝負。ですので流れの善し悪しといった概念が自分には理解できません。それに開幕前は、フルセットにするのがタイトル戦に出場する棋士の最低限の務めだと思っていたんです。最終局がいちばん盛り上がりますし、連敗してしまいましたけど注目の一局を指せる喜びもありますから」

こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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