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プロポーズ直後の試合が、あのゼロックス杯…“嫌われた審判”家本政明48歳、大バッシング騒動を支えた妻への感謝とこれからの野望
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE
posted2022/01/13 17:02
ラストマッチのピッチに入場する家本主審。試合後に映像を見直してつけた自己採点は「9.5」
1年後――。
2021年11月1日、Jリーグの担当審判員から卒業することが日本サッカー協会から発表され、サンフレッチェ広島とFC東京との一戦(11月27日)を終えると残すは1試合のみとなった。
やることはいつもどおり。
試合を終えると当日ないしは翌日までに担当試合の映像を1.5倍速で見て、自分のレフェリングを振り返る。判定はどうか、自分のポジショニングはどうか、試合の流れをちゃんとつかめていたか、ノイズを立てていなかったか(試合をノッキングさせていなかったか)をチェックする。ただ家本はそれで終わりにしない。ノーマルの速度でもう1回、映像を見ることにしている。これは純粋に戦術や選手の特徴など「サッカー目線」を磨くためでもある。ファン、サポーターの反応なども頭にインプットしておく。
広島から翌日に帰京して映像をチェックするとともに、自転車で汗を流すことも忘れない。次の試合に向けたコンディション調整としてはベタ休みせず、試合の3日前に高強度トレーニングを取り入れて、2日前、1日前は疲労を抜いて軽めに済ましておくと当日は万全になる。48歳という年齢とシーズン終盤の状況では疲労回復の重要度が増す。やりすぎないことが大切になる。
かつては対戦カードの情報を予習しておくことが常だったが、2012年以降はやらなくなったという。「自分の場合は変に事前情報を入れてしまうと、それに引っ張られて目の前の変化に鈍感になったり、起きた出来事に素直に向き合えなかったりとリスキーだから」という結論に至ったからだ。
3万人以上が見守る中でのラストマッチ
12月4日、日産スタジアム。
前年同様に独走で2連覇を決めた川崎フロンターレをホームに迎えた2位・横浜F・マリノスとの最終節に“消化試合”の雰囲気はなかった。
新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていたことで規制が緩まり、この日は晴天のもと3万人以上のファンが集まっていた。
試合前のルーティンは、ウォーミングアップしながら同じくウォーミングアップする両チームの選手たちをよく観察すること。個々の動き、表情、仲間との連動や全体の空気感まで自分なりにつかんでおく。
あのときもいろんな情報が目から耳から入ってきた。
「消化試合という雰囲気は本当にゼロでした。勝利に対する意欲もさることながら、F・マリノスなら前田大然選手を、フロンターレならレアンドロ・ダミアン選手を得点王にさせたいっていう強い思いが溢れ出ていましたし、全員が試合に集中していました。これはもう最初から両チームともガンガンいくだろうなと予想しました。前田選手はいつもどおりの感じで、逆にレアンドロ・ダミアン選手は少し硬い気がしましたね」
家本の予想どおり、両チームともスタートからテンションが高かった。クリーンなファイトが繰り広げられ、笛を吹く機会すら少ない。
「もちろん僕自身も試合に集中できていました。両チームの持てる力を引き出し、お客さんに最高のフットボールを提供するのが自分の仕事。みんな集中しているし、すごくいい試合になるんじゃないかなと思いながらレフェリングしていました」
前田、レアンドロ・ダミアンがともに1ゴールをマークして1-1のドローに終わった。時間が経つのがとても早く感じた。最後の試合だからという感慨は特にない。選手、ファン、そして自分も楽しかったと思える試合に携わったことをただただうれしく思えた。