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《衝撃の敗戦》朝倉海の敗因は“右拳骨折”だけだったのか? RIZIN GP決勝、扇久保博正に劇的リベンジを許した「自分の実力不足」の真相
posted2022/01/01 17:08
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
RIZINは大晦日を格闘技の「シーズンピーク」としている。20年以上、さまざまな団体が続けてきた“大晦日決戦”こそ、日本で格闘技が最も盛り上がる日であり舞台というわけだ。
当然、マッチメイクも気合いの入ったものになるし、RIZINのカード編成の流れは大晦日をクライマックスとして設定される。
この桧舞台で、なぜか朝倉海は勝てない。2018年の初出場時こそ勝利しているが、それ以降は2021年まで3連敗となった。ベルトを巻き、日本人格闘家としてトップクラスの人気と知名度を誇り、もはや実力を疑う者はいない。なのに、大晦日にだけ勝てない。
8月に堀口恭司をKOし飛躍した2019年はバンタム級王座決定戦でマネル・ケイプに敗れた。コロナ禍の2020年、やはり8月に王座決定戦に勝ってベルトを巻いたものの、大晦日は堀口のカーフキックに沈み、ベルトを失った。
年が明けて2021年。海はバンタム級ジャパンGPにエントリーする。コロナ禍が続き海外遠征がしにくいという事情もあったが、何より堀口に負けたイメージを引きずったまま“次の展開”には進めない。まず日本で勝つことを重視。トーナメントで優勝して「やっぱり強い」とファンに示さなくてはいけない。海はそう考えた。
アメリカ在住の堀口がいないトーナメントでは、海は優勝候補の大本命だ。狙われる立場であり、試合にはリスクしかない。優勝して当然。だからこそ自分を追い込み、強くなることができたとも海は語っている。
6月の1回戦、9月の2回戦ともに力の差を見せて勝った。大晦日、さいたまスーパーアリーナでの闘いはベスト4による1DAYトーナメントだ。まずは準決勝、海は瀧澤謙太に判定勝利を収める。決勝はメインイベント。海にとっては3年連続の大晦日メインだ。そして結果もまた、3年連続で“衝撃の敗戦”となってしまった。
扇久保はトーナメント全て判定勝ちの“執念”
決勝で海と対峙したのは扇久保博正。ベスト4の中で唯一の30代(34歳)は、準決勝で海の対抗馬と見られていた井上直樹に逆転勝利を収める。決勝はリマッチだった。昨年、海がバンタム級王座を獲得した試合で闘ったのが扇久保だったのだ。その試合では、海が1ラウンドKO勝利。扇久保は、完敗を喫しても諦めることなくトーナメントに臨み、勝利を重ねて再戦にたどりついた。
今回も早期決着がありうる。そんな予測もできた。だが試合の様相は前回とはまったく異なるものになった。扇久保がそうしたのだ。ローキック、パンチが当たる。タックルを仕掛けテイクダウンに成功。最後まで主導権を手放さず、扇久保は3-0の判定勝ちでリベンジと優勝を手にした。試合後にはリング上で(ということはフジテレビ地上波生中継で)公開プロポーズにも成功した。優勝賞金は1000万円。
「最後まで気持ちを切らさず闘おうと。執念で勝ち切りました」
試合後の扇久保は言った。執念。それは間違いなく彼の勝因だった。トーナメント全体がそうだ。4試合すべて判定勝ち。1回戦では拳を負傷してもいる。コツコツと丁寧に、気持ちを切らさず自分のやるべきことに徹した。派手な闘いぶりではなかったが、だから余計に“気持ち”が際立った。