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格闘技PRESSBACK NUMBER
「メイウェザーが本気になった…」“大晦日の格闘技を撮り続けて20年”名物フォトグラファーが語る「リングの空気が変わった瞬間」
posted2021/12/31 11:05
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
2016年も、RIZINは2日にわたって開催された。29日は那須川天心がRIZINデビューを果たした記念すべき日だ。私は彼のプロデビュー前から注目しており、現在までほぼすべての試合を撮り続けている。じつを言うと天心とは、試合を撮影する関係だけではなく、一緒に釣りに行く遊び仲間でもある。私のスタジオに来たことも何度かあり、息子とも年齢が近いため、個人的にも非常に親近感を持っている選手だ。天心がRIZINで試合をする随分前から、関係者に彼のファイターとしての才能、実力、可能性などの話をしていた。
しかし天心の試合の前日に、あろうことか私は高熱を出してダウンしてしまった。この年は、RIZINの大会と並行して『格闘技EXPO 2016』が試合会場の隣で開かれた。私はイベントのひとつとして写真展とトークイベントを任されていたが、トークは欠席。写真展の設営も他のスタッフにお願いして、休息に努めた。朦朧とする意識の中、私は妻にうわ言のように「天心君の試合があるんだ。俺は死んでもいいから撮影に行く」と何度も言っていたそうだ。
「そんな右腕でどうやって…」那須川天心の衝撃
12月29日、試合当日の朝、奇跡的に熱が下がり会場に行けることになった。天心は第8試合に登場。ルールはキックルールではなく、MMAルールだ。天心が寝技ありの試合をするのは初めてだったが、彼はいつもと同じようなほどよい緊張感で入場。私は撮影するだけなのだが、心臓の鼓動が高まり、汗をかき、手が少し震えていた。緊張しているからなのか、体調不良によるものなのか、理由はいまでもわからない。これほど長くリングサイドで撮影しているのに、こんな経験は初めてだった。それはまるで、自分が試合をしているような気分だった。
試合中盤、寝技になり私の目の前で天心の腕が完全に伸ばされた。「勝負あり、負けた」と思ったとき、天心は自身の身体を反転させ、ピンチから抜けだす。その後は力強いパウンドで相手を仕留めた。試合後のマイクで、天心は2日後の大晦日への連続出場をアピールした。
「そんな右腕でどうやって試合が出来るんだよ……」と、私は小さくつぶやいた。