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「見たか、この野郎」因縁の井上直樹と朝倉海を圧倒し、プロポーズも大成功…“UFCに落ちた男”扇久保博正がすべてを手に入れた夜

posted2022/01/02 17:02

 
「見たか、この野郎」因縁の井上直樹と朝倉海を圧倒し、プロポーズも大成功…“UFCに落ちた男”扇久保博正がすべてを手に入れた夜<Number Web> photograph by ©RIZIN FF Susumu Nagao

『RIZIN JAPAN GP2021 バンタム級トーナメント』で優勝を果たし、プロポーズにも成功した扇久保博正。井上直樹、朝倉海という難敵を退けた先には、人生最良の瞬間が待っていた

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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©RIZIN FF Susumu Nagao

「すごいよね。一晩で全部手に入れたよね」

 すでに時計の針は日を跨ぎ、1月1日の午前0時半を過ぎていた。プレスルーム前の通路で、会見を終えたばかりの扇久保博正と顔を合わせると、榊原信行CEOは笑顔とともに労をねぎらった。

 その言葉に偽りはない。扇久保は『RIZIN JAPAN GP2021 バンタム級トーナメント』の準決勝と決勝を制すると、交際中の京香さんにリング上からプロポーズ。彼女も涙で頬を濡らしながらその呼びかけに応じ、一度に大きなものをふたつも手に入れたのだから。

 試合前から扇久保は「優勝したら、プロポーズしたい」と公言していたが、人生にこんなことはそうそうあるわけではない。まさに師走のRIZINドリームではないか。

UFCとの契約は叶わず…扇久保が味わった屈辱とは

 2021年12月31日、コロナ禍のなか2万2499名の大観衆を集め開催された『RIZIN.33』では全16試合が組まれたが、大トリのトーナメント決勝を制した扇久保の存在感は格別だった。

 そもそも、扇久保はこのトーナメントの主役ではなかった。優勝候補は人気絶頂の朝倉海で、対抗はスター性を感じさせファイターとしてのポテンシャルも高い5連勝中の井上直樹だった。昨年6月にトーナメントが始まったときから、ドラマはこのふたりを中心に展開されていた、といっても過言ではない。

 トーナメントが開幕戦、準々決勝と進みベスト4が決まっても、扇久保にスポットライトが当たることは極めて少なかった。無理もない。準決勝で朝倉と当たることになった瀧澤謙太は甘いルックスをしているし、何よりも27歳とまだ若かった。もっというと、生き残った4名のうち扇久保だけが30代だった。おまけに2020年8月には朝倉海にいいところなくTKO負けを喫し、井上に対しては大きなジェラシーを抱かざるをえない出来事に出くわした。

 井上は2017年4月に、日本人選手としては史上最年少の19歳でUFCと契約している。対照的に、扇久保は前年の2016年から、同団体との正式契約を目指す16人の選手が2チームに分かれ、共同生活を送りながらトーナメントで闘う選手育成番組『TUF』に出演。決勝まで進出したが、UFCと契約するまでには至らなかった。その際、世界最大のMMAプロモーションは扇久保に「試合がつまらない」と告げた。井上との差は何なのか。これ以上の屈辱はなかった。

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