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私が驚いた“非情な戦力外通告”「イップスなんだそうです…」プロ野球に入って“自分の投球フォームを見失う”悲劇は防げるのか?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byGetty Images
posted2021/12/28 17:06
数多くのアマチュア選手を取材してきた筆者が見た「戦力外通告」の現実とは? ※写真はイメージ
アマチュア時代に、何試合もそのピッチングを見て、グラウンドに取材にも伺って……間近でその球筋も確かめていた投手が、ええっ!と思うほどの早い年次で、戦力外通告を受けたから驚いた。
故障発生で育成枠に転じるのかと思いきや、そうした発表もなく、そのまま球団の籍から抜けた。
アマチュア時代の監督さんにお会いする機会があったので、恐るおそる訊いてみた。
う~んとしばらく唸ってから、話しにくそうにきり出してくれた。
「イップスなんだそうです……」
真上から投げ下ろして、低めに集められる投手だった。動作が一瞬止まるような要素もなく、流動性の高いフォームが印象的だったから、余計驚いた。
「ちょっとフォームを直されたらしくて……テークバックの部分ですかね。うーん、僕もちょっと驚いてるっていうか、納得いかない部分もあるんですけど」
いつもの歯切れよい語り口にはほど遠かった。
「担当してくれたスカウトの方は、育成でもう何年か、ってずいぶん球団のほうにも掛け合ってくれたようなんですけどね……結局、ダメで」
不思議がっている、腹を立てている……というよりも、ただ悲しそうだった。
『絶対コーチの言うこと、聞かんでください』
ある高校の監督さんが以前、こんな話をしていた。
「ウチのあるピッチャーが指名された時に、担当スカウトが『入団しても、絶対コーチの言うこと、聞かんでください。今の彼がいいから獲るんですから』っていうから、ヘンなこと言うな……と思った。それでオールスターの休暇でこっち帰ってきて投げさせたら、見事に腕の振りが変わっててね。ボールもぜんぜん“あいつのボール”じゃなかったんで、すぐ元の振りに直して帰したら、オフに帰ってきて、また戻ってる」
お前、どうしたんだ!と問いただしたら、
「言う通りに投げんと、使ってもらえないんですよ」
混迷の若き快腕が、悔し泣きに泣いたという。
担当のスカウトから現場の指導者に、「選手情報」はどれぐらい届いているのだろうか。
「スカウトの言うことなんか、現場が聞くもんですか」