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私が驚いた“非情な戦力外通告”「イップスなんだそうです…」プロ野球に入って“自分の投球フォームを見失う”悲劇は防げるのか?
posted2021/12/28 17:06
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Getty Images
ヤクルトスワローズのスカウト(のちにスカウト部長)を長く務められた片岡宏雄氏が、12月6日に亡くなられた。
この秋・冬は、私にとって本当に大事な方々が何人も亡くなって、驚いている。「鬼平」の中村吉右衛門さん、瀬戸内寂聴さん、古葉竹識・元広島監督……片岡氏もその中の1人だ。
片岡氏には生前、拙書「スカウト魂」(日刊スポーツ出版社)にもご登場いただき、三十数ページにわたって、現職当時のお話をいただいた。
その中で、今でも記憶になまなましい場面がある。
話が「戦力外」に及んだ時のことだ。
「そりゃあ、人間の先のことなんか、誰にもわからへんよ。スカウトなんかいうて、選手連れてきてるけど、ほんとのところ使えるかどうかなんて、誰にも分からんのよ。そんなこと言うんなら、どっかから偉い占い師でも雇って、選手見てもうたほうが、ずっとええんちゃうか」
それまでは冗談まじりの、例のおとぼけ口調で相手をしてくださっていた片岡氏の論調が急転したから、オオッと思った。
「クビになった選手の責任、いちいち言われとったら、スカウトなんかやるヤツ、いなくなりますよ。ほんま、ええ加減にしてよ……」
問い詰めたわけでも、そんなつもりの話でもなかったのに、これだけピリピリした反応をされたことに、人が人を見定める……スカウティングの難しさやその限界を伝えようとされたのでは、と思った。
「イップスなんだそうです…」
このオフも、12球団から多くの選手が「戦力外通告」を受けた。
多くは3年間の契約期限が切れた育成選手が再契約のために、いったん戦力外通告を受けた例だが、残りはそれ以外の理由……つまり「解雇」だ。
5年を超え、10年前後に及ぶプロ野球生活を経た上での「戦力外」なら、持てる力を発揮し、力及ばず……闘った末での結果だから、本人の納得も少しは伴うものだろう。だが、そこまでの年次に届かずに、故障や実力不足などで身を退く場合は、少なからぬ後悔や心残りが伴うものではないだろうか。
毎年シーズンオフが近づく頃、「儀式」のように行われる戦力外通告だが、そのたび、ある種の違和感を覚えてきた。
何年か前、ちょうど戦力外通告の時期にこんなことがあった。