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私が驚いた“非情な戦力外通告”「イップスなんだそうです…」プロ野球に入って“自分の投球フォームを見失う”悲劇は防げるのか?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byGetty Images
posted2021/12/28 17:06
数多くのアマチュア選手を取材してきた筆者が見た「戦力外通告」の現実とは? ※写真はイメージ
スカウト部長になる前の片岡氏に、こう一蹴されたこともある。
「一応、連絡会みたいなことはありますよ。選手の長所・短所から球歴、故障歴みたいなことは伝えますけど、それを採る、採らないは、コーチによりますよね。中には、そういうことは聞かないほうがいいんだ、先入観はないほうがいい……っていう人もいますから」
「コーチとスカウトの力関係なのか…」
これは、去年だったか、あるスカウトの方が話していたことだ。
「個人的には、ぜひ指導の参考にしてほしいと思います。選手のこと、いちばん知ってるのは我々ですからね。指導の現場でも、選手のバックグラウンドを分かっていたほうが、選手の行動や発言を理解しやすいはずだし、お互いの信頼も生まれると思うんですよ。だって、選手にとっては現場に出たら、コーチしか頼りになる人いないわけですから……。
でも、なんですかね……コーチとスカウトの力関係なのか、僕らが現場に伝えたことが効果的に使われてるっていうのは、あまり聞いたことありませんね」
こんなもったいないことはないな……と思う。
スカウトたちが、何年もかけて追跡した選手たちの情報とは、間違いなくその「選手の歴史」であろう。
「スカウト兼ファームコーチ」はどうか
ならば……と、フッと考えたことがある。
入団した選手がファームにいる間は、担当したスカウトをコーチ登録して、指導にあたってもらってはどうか。
一方で、ファームの指導者をスカウト登録して……たとえばスカウト10人、ファームコーチ10人の構成ならば、「スカウト兼ファームコーチ」20人の構成にする。
それぞれにスカウトとしての担当地区を設定すれば、担当地区の範囲も今までの半分ほどになり、選手指導の時間とエネルギーも作れるのではないか。
アマチュア時代から見ていたスカウトなら、選手のベストコンディションの状態を知っているから、そこから外れていないか……そのチェックが最優先になる。自分の信じる「典型」にはめ込もうとして、フォームを見失うという「悲劇」もずっと減ってくるように想像する。
若い選手が伸びてこない理由を、現場は「ろくな選手獲ってこない」と言い、スカウトは「現場に指導力がない」とお互いに理由をなすり付け合うことで、責任の所在をあいまいにしている。
その間(はざま)で犠牲になっていく若者たちは決して少なくないと思う。
“指導者”側が1年でコロコロ代わっていいのか?
「そうは言ったって、自分たちだって、1年契約の中で結果出さないとクビですからね。そうノンビリ構えてられない。直せば戦力になると思えば、直しますよ」