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「高校野球じゃあるまいし、これは魔女狩りではないか」紅白歌合戦、本番当日に審査員が突然辞退した事件《北島三郎のスキャンダルで…》 

text by

近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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photograph byKYODO

posted2021/12/31 11:09

「高校野球じゃあるまいし、これは魔女狩りではないか」紅白歌合戦、本番当日に審査員が突然辞退した事件《北島三郎のスキャンダルで…》<Number Web> photograph by KYODO

写真は昨年のNHK紅白歌合戦のリハーサル。司会を務めた二階堂ふみ、内村光良、大泉洋

《たかが年末の芸能番組にすぎない「紅白」が、何故道徳的な神を演じなければならないのか、これではまるで世論という目に見えぬものの名を借りた道徳管理にほかなりません。(中略)高校野球じゃあるまいし、これは魔女狩りではないでしょうか。このような処置が常識化されてゆくことは、いやです。TV局は、裁判所ではないはずです。/こうして芸能は平均化され滅ぼされてゆくのです。芸能はどぶ泥のような世界に根を持つものです。そこでは善も悪も混沌として存在するのです。芸能する者は、宿命のようにそこに足をとられている者だからこそ、逆説的に人々の夢を体現できるのです》(「マスコミによる魔女狩り――NHK紅白歌合戦辞退の理由」、蜷川幸雄『千のナイフ、千の目』ちくま文庫所収)

「マスコミによる魔女狩り」というタイトルからもあきらかなように、蜷川の批判は、この年の紅白におけるNHKの態度だけでなく、芸能人のスキャンダルを糾弾するマスコミ全体に向けられていた。ちょうどこの年の紅白の直前には、ビートたけしが写真週刊誌の取材に抗議し、弟子たちを率いて編集部を襲撃する事件も起きていた。紅白歌合戦やマスコミ、また芸能のあり方に対し判断を下したという意味で、蜷川の行動は究極の“審査”であったともいえる。

 ここ最近の紅白歌合戦は対決色が薄くなり、ゲスト審査員も番組を彩る以上の役割はもはや求められなくなっている印象がある。しかし、こんな時代だからこそ、審査員も何らかの形で芸能の力をアピールするような態度を示してほしいとは思う。今年でいえば、蜷川幸雄と同じ演劇人である三谷幸喜にそんな役回りをちょっと期待してしまう。

※本記事執筆にあたっては、合田道人『紅白歌合戦 ウラ話』(全音楽譜出版社、2019年)なども参照しました。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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