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「高校野球じゃあるまいし、これは魔女狩りではないか」紅白歌合戦、本番当日に審査員が突然辞退した事件《北島三郎のスキャンダルで…》
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byKYODO
posted2021/12/31 11:09
写真は昨年のNHK紅白歌合戦のリハーサル。司会を務めた二階堂ふみ、内村光良、大泉洋
有森、古賀、中田、伊藤から“解禁”された
ようするに、アマチュア規定のもとでは報道以外での選手のテレビ出演はほぼ不可能に近かったといえる。こうした厳しい制限がある以上、いかに国民的番組である紅白歌合戦といえども、NHKは現役選手の審査員起用にはなかなか踏み切れなかったのではないか。
しかし、1974年にはIOCがオリンピック憲章からアマチュアの定義を削除、オリンピックは徐々にプロ選手にも門戸を開いていった。体協もこうした時代の変化を受け、1986年にアマチュア規定を廃止している。その廃止後、最初のオリンピックイヤーとなった1988年の紅白でこそオリンピック選手の出演はなかったが、4年後の1992年には、バルセロナ五輪で活躍したマラソンの有森裕子、柔道の古賀稔彦、バレーボールの中田久美、アルベールビル冬季五輪のフィギュアスケートで銀メダルを獲得した伊藤みどりと、複数の選手が審査員に選ばれた(このうち中田は出演時には現役を引退しており、伊藤はプロに転向している)。以来、この流れは現在まで続いている。
「これは魔女狩りではないでしょうか」審査員が突然辞退した事件
紅白歌合戦では、今年の松田聖子のように出場歌手が決定後に辞退するケースもたびたび生じている。1986年には北島三郎と山本譲二が出場が決まったあとで、前年に暴力団の新年会に出演していたことが発覚したため、放送2日前に出場辞退に追い込まれた(暴力団と関係することが法律で厳しく禁じられているいまなら、紅白辞退どころでは済まなかっただろうが)。
NHKの発表では辞退は本人たちの申し出によるものとされたが、北島・山本サイドは、NHKから辞退した形にしてほしいと電話があり、それに従ったと説明した。このあと、代役に立てられた1人、鳥羽一郎も、過去に暴力団の会合に出たことがあるとして辞退を申し入れる。結局、角川博とシブがき隊が代役を務めた。
しかし、騒ぎはこれで終わらなかった。ゲスト審査員に決まっていた舞台演出家の蜷川幸雄が、この件でのNHKの態度を批判し、放送当日になって辞退したのだ。代役は、このころNHKで『連想ゲーム』に出演していた漫画家の加藤芳郎が急遽引き受けた。
蜷川は辞退にあたって声明書を原稿用紙にしたため、放送まで8時間を切った大晦日の午後1時半、所属事務所の代表からNHKの音楽芸能部長に渡された。後年刊行された彼の著書に再録されたその文章では、次のような主張がなされていた。